日常的な会話やSNS上でのやり取りの中で、軽い気持ちで相手を煽った結果、相手が実際に犯罪を実行してしまったというケースが近年増えています。こうした場面で「教唆罪」が成立するかどうかは、刑法において非常に重要な問題です。本記事では、教唆罪の成立要件と「煽る」行為がどのように法律で評価されるのかを、実例を交えながら解説します。
教唆罪の基本的な定義と条文
教唆罪は刑法第61条に定められており、「他人を教唆して犯罪を実行させた者は、その犯罪の刑に処する」と規定されています。つまり、犯罪の実行者と同様の処罰を受ける可能性がある重大な犯罪類型です。
ここで重要なのは「教唆」とは、単なる助言や意見とは異なり、相手を心理的に動かし、実際に犯罪を決意させる行為を指すという点です。
「煽り」行為は教唆にあたるのか?
たとえば、相手に対して「やっちゃえよ、どうせバレないって」や「〇〇を殴ったほうがいいよ」といった発言をし、相手がそれを受けて実際に犯罪を行った場合、これは教唆に該当する可能性があります。
教唆が成立するには、①相手に犯罪を行わせる意図があり、②その言動によって実際に相手が犯罪を実行した、という因果関係が必要です。単なる雑談や冗談ではなく、相手に強い影響を与えたことが問われます。
具体例で見る教唆罪の成立ケース
例:ある人物がSNS上で「〇〇の家に火をつけるしかないだろ」と投稿し、それを見た別の人物が本当に放火を行った場合。投稿者が放火犯と面識がなくても、状況次第では「不特定多数への教唆」として問われることがあります。
また、対面での例として、知人に「Aを殴れよ、アイツむかつくだろ」とそそのかし、実際に暴行事件が起きた場合、教唆者も暴行罪の共犯として処罰される可能性があります。
教唆と幇助の違いに注意
教唆とよく混同されがちなのが「幇助(ほうじょ)罪」です。幇助とは、犯罪を助けることを指し、たとえば逃走用の車を提供したり、犯行道具を渡す行為が該当します。
一方、教唆は「心理的に影響を与え、犯罪を決意させる行為」であるため、実行者の犯罪の意思形成に関与している点が異なります。幇助犯よりも重い刑罰が科されることが多い点も要注意です。
教唆が成立しないケースとは?
教唆が成立するためには、被教唆者が実際に犯罪を実行したことが条件となります。つまり、教唆を受けた人が犯罪に至らなければ、教唆未遂となり、原則として処罰されません(ただし例外あり)。
また、冗談や比喩であったと証明できれば、教唆の故意が否定され、処罰の対象にならない可能性もあります。しかし、近年の裁判では「冗談だった」という主張が通らない例も増えているため、慎重な言動が求められます。
まとめ:軽い気持ちの発言でも教唆罪が成立する可能性あり
教唆罪は、他人を心理的に動かして犯罪を実行させた場合に成立する重大な共犯類型です。特に「煽り」と見なされる言動は、SNSやチャットでも記録に残りやすく、証拠として使用されることが多いため注意が必要です。
軽い発言が刑事責任を問われるリスクにつながることもある現代において、自分の言動がどのような影響を与えるのかを常に意識することが大切です。