公的な卒業証書をめぐる偽造疑惑が出た場合、「自分が偽造したわけではない」「いつ誰からもらったか覚えていない」と主張すれば、有罪を免れるのでしょうか。この記事では、有印私文書偽造罪の法的構成要件や立証責任との関係を詳しく解説します。
有印私文書偽造罪の構成要件とは?
この罪(刑法159条1項)は、①他人名義の印章・署名を使って、②権利・義務・事実証明に関する文書を偽造し、③行使目的がある場合に成立します。法定刑は懲役3月〜5年と重いものです :contentReference[oaicite:0]{index=0}。
ポイントは“行使の目的”と“他人名義”であり、本人が偽造したかどうか以上に、「誰が」「いつ」「どのように」文書を使用したかが重要になります。
立証責任は誰にある?“覚えていない”は通用しない
刑事裁判では、検察が“誰が偽造したか”について合理的な疑いを排除できる証拠を提示する義務があります。しかし、被告が「記憶にない」と言うだけでは不十分です。
例えば、作成当時市長しか得にならない状況や、他者の関与が考えにくい場合、検察は状況証拠を積み重ねて有罪へ持ち込むことが可能です。
「他人が偽造した」は通用する?法廷での矛盾リスク
「誰かから受け取った偽造品で被害者だ」という逃げ口上は、①文書偽造の“行使目的”が既に発生している点、及び②偽造の物理的証拠(紙質・署名の筆跡等)が本人関与を示す場合、説得力を失います。
また、証拠隠滅や虚偽供述とみなされるリスクがあり、かえって逆効果になる可能性があります。
実際の裁判例ではどう判断された?
有印私文書偽造罪が成立した判例(平成12年刑(わ)1099号など)では、被告が市長名義で申請書を偽造し署名・押印していたことを物的証拠と証言から認定。本人の“記憶にない”証言は棄却されています :contentReference[oaicite:1]{index=1}。
つまり、「記憶にない」だけでは逃げ切れず、偽造の“意志と現場性”が証明されれば有罪になります。
まとめ:逃げ切りの主張は法廷で通用しない
「私が偽造したとは言ってない」「記憶がない」は、刑事責任を免れる理由にはならないのが実際の司法運用です。検察は状況証拠・物的証拠・供述を総合し、「偽造したと推認される合理的な根拠」を示せば十分だからです。
最終的には、誰がどういう意図で偽造し、どのように使用したか――行為者と目的を検察が立証できれば、有印私文書偽造罪は成立します。そのため、「逃げ切れる」と安易に考えるのは危険と言えます。