インターネット上での詐欺事件が急増する中、「被害金が振り込まれた銀行口座の名義人やその家族から損害を取り立てることはできるのか?」という疑問を持つ方が増えています。特に、口座名義人が詐欺に加担している場合や、家族が関与していた可能性があるケースでは、法的な責任範囲が気になるところです。この記事では、民事・刑事の視点から、家族に対して損害賠償請求や強制執行が可能かどうかをわかりやすく解説します。
基本原則:加害者本人の責任が原則
日本の法律では、不法行為(詐欺など)に基づく損害賠償責任は加害者本人に課されるのが原則です。つまり、詐欺で使われた口座の名義人が詐欺グループに口座を売却していた場合、その名義人本人が損害賠償の対象になります。
一方、口座名義人の親や兄弟といった家族は、原則として法的責任を負いません。「家族だから」という理由だけで請求されることはありません。
例外的に家族に責任が生じるケース
ただし、例外的に以下のような場合には、家族にも損害賠償責任が問われる可能性があります。
- 共犯であると認定された場合(例:家族が詐欺の計画を知っていた、資金を引き出していたなど)
- 名義を貸していた(名義預金)など、実質的に関与していたと判断される場合
- 相続人として債務を引き継いだ場合(相続放棄しなかった場合)
たとえば、被害金が実際には家族の管理する口座に移されたといった証拠がある場合は、民事責任や詐欺幇助として刑事責任を問われることもあります。
民事訴訟での取り立てはどうなる?
詐欺被害者が損害賠償を求めるには、民事訴訟を通じて判決を得るか、示談によって返金を求めることになります。加害者本人が行方不明であったり、資産を隠匿している場合、現実的な回収は難航することが多いです。
そのため、家族の財産に目を向けたくなる気持ちは理解できますが、法的に「赤の他人」と扱われる限り、請求は難しいのが現実です。
刑事責任と「預貯金口座の売買」への罰則
2023年の法改正以降、銀行口座の売買や貸与は犯罪行為と明確に位置付けられました。実際、詐欺グループに口座を譲渡しただけで「犯罪収益移転防止法違反」で逮捕されるケースも増えています。
そのため、口座名義人本人が「知らなかった」「自分は被害者」と主張しても、法的責任を逃れることは困難です。
現実的な対応:被害届と損害回復の手段
ネット詐欺被害に遭った場合は、すぐに以下の行動を取ることが重要です。
- 警察へ被害届を提出
- 振込先口座の凍結を金融機関に要請
- 口座名義人に対して損害賠償請求(必要に応じて弁護士に依頼)
ただし、加害者に資産がない場合や、すでに使い込まれている場合には、回収は非常に困難です。現実的には「泣き寝入り」になるケースも少なくありません。
まとめ:口座名義人の家族には基本的に責任なし、ただし例外も
ネット詐欺に利用された口座の名義人からの取り立ては、法的にも可能ですが、その家族から取り立てることは原則としてできません。ただし、共犯や資金の受け取りなど積極的関与があれば、例外的に責任が及ぶ可能性があります。
詐欺事件の被害に遭った場合は、早急に警察や弁護士に相談し、合法的な手続きを通じて対応することが重要です。感情的な行動ではなく、証拠に基づいた冷静な対応が、被害回復の第一歩になります。