公益通報者保護法の改正で何が変わる?刑事罰・過去の通報・代理告発の可否を解説

公益通報者保護法は、企業や行政機関などで働く内部告発者を保護するための法律です。2022年の改正を経て、2023年6月から強化された新制度が施行され、違反者に対しては刑事罰が科されるようになりました。本記事では、改正内容のポイントとともに、過去の事件にもさかのぼって適用できるのか、また通報者本人以外による告発の可否など、実務上の疑問に丁寧にお答えします。

公益通報者保護法とは何か

公益通報者保護法(通称:内部告発保護法)は、不正行為の告発を行った労働者が報復として解雇されたり、不利益な扱いを受けることがないように保護する法律です。対象となる通報は、刑事罰が科される違法行為や法令違反などに関するものに限られます。

たとえば、食品表示偽装や環境法違反、労働安全衛生法の違反など、広範な業種にわたって適用されています。

2022年改正で追加された刑事罰と罰則内容

2022年の改正により、内部通報を理由とした解雇や不利益な取り扱いを行った事業者に対し、50万円以下の過料が科されることとなりました(第20条)。また、内部通報に関する秘密漏えいを行った者には、30万円以下の過料が定められています。

これは単なる行政処分ではなく刑事罰であり、刑事事件として警察や検察による捜査・起訴の対象となり得る内容です。

過去の事例にさかのぼって刑事罰を適用できるか

日本の法体系では、「遡及処罰の禁止」が憲法39条により明確に定められています。つまり、改正法の施行日(2023年6月1日)以前に起きた事例には、新たに追加された刑事罰は適用されません。

したがって、過去に行われた通報への報復などが改正前の行為であれば、新法に基づいての刑事処分はできないのが原則です。ただし、改正前の法律にも基づく行政的な是正勧告や民事訴訟の対象にはなりえます。

通報者本人でなくても告発できるのか?

刑事事件においては、告訴権・告発権が被害者本人だけでなく第三者にも認められています。したがって、通報者本人が報復に対する訴えをしない場合でも、通報者が属する労働組合や弁護士、家族などが告発を行うことは可能です。

たとえば、労働組合が「公益通報に対する解雇が違法である」として労働基準監督署や警察に通報し、調査が開始される事例も存在します。

企業や組織はどう備えるべきか

企業や行政機関は、内部通報制度の整備とともに、通報対応窓口の設置と秘密保持の徹底が求められます。経済産業省の公式ガイドラインでは、企業向けに「通報者の保護」「適正な調査」「再発防止策」の3つを軸に制度整備のポイントがまとめられています。

特に社内マニュアルに、報復行為の禁止や報告者へのヒアリングの透明性確保を明記しておくことが望ましいです。

まとめ:通報者保護の法制度を正しく理解しよう

公益通報者保護法の改正により、企業・組織の対応に刑事罰が関わるようになったことは大きな変化です。ただし、それは未来の行為に対しての適用であり、過去の行為をさかのぼって処罰することは原則としてできません。

とはいえ、本人以外の第三者による告発も可能であり、今後は組織としてのコンプライアンス体制がますます重要になるといえるでしょう。

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