交通事故によって仕事を休まざるを得なくなったとき、経済的な補償として「健康保険の傷病手当金」や「自賠責保険の休業損害補償」が存在します。しかし、これらの制度には重複して受け取れないなどの制限があるため、仕組みを正しく理解することが大切です。本記事では、両制度の違いと使い方、実際の申請時の注意点について詳しく解説します。
自賠責保険による休業損害補償の仕組み
交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、その中の自賠責保険がまず優先して補償を行います。休業損害については、事故によって収入が減少した場合に1日あたり最大6,100円(もしくは実収入に応じて計算)を限度として補償が受けられます。
自営業やパート、アルバイトなどの立場にかかわらず、一定の条件を満たせば請求可能です。ただし、事故と休業の因果関係を証明するための診断書や勤務証明、給与明細などの提出が必要です。
健康保険の傷病手当金の概要
健康保険に加入している会社員などが業務外の病気やケガ(交通事故を含む)で働けなくなった場合、傷病手当金が支給されます。支給額は標準報酬日額の2/3程度で、4日目以降からの休業期間が対象です。
ただし、同種の補償(たとえば自賠責からの休業補償)を受けている場合は、「損害がすでに補填されている」として、傷病手当金は支給されないことがあります。
併用はできる?傷病手当金と休業補償の関係
原則として、傷病手当金と自賠責保険の休業損害補償は重複して受け取ることはできません。しかし、自賠責の補償額が傷病手当金の額に満たない場合、その差額については支給されることもあります。
たとえば、自賠責で1日あたり5,000円しか補償されなかったが、本来の傷病手当金が1日あたり7,000円であった場合、その差額2,000円分は健康保険から支払われる可能性があります。この点については、各健康保険組合の判断にも左右されるため、事前に確認が必要です。
どちらを先に請求するべきか?申請の順序と実務上の対応
多くの健康保険組合では、「まず自賠責保険に請求してほしい」と案内されます。そのため、事故が原因の休業であれば、まずは加害者側の保険会社に休業損害を請求し、支給された金額を把握したうえで、傷病手当金の差額分が出るかを確認するのが現実的な流れです。
なお、健康保険に提出する書類の作成(医師の意見書や会社の証明書など)は自己負担となる場合もあるため、書類を集める前に「請求可能かどうか」をしっかり確認しておくことが重要です。
具体的なケーススタディ:Aさんの例
例:会社員のAさんは、通勤以外の時間帯に交通事故に遭い、2週間仕事を休みました。加害者の責任割合は100%。Aさんはまず自賠責保険から休業損害(1日あたり6,100円)を受け取りました。
しかし、Aさんの標準報酬日額に基づく傷病手当金は1日あたり8,000円相当だったため、差額1,900円について健康保険組合に相談したところ、必要書類を再提出することで差額分の給付を受けることができました。
まとめ:休業時の補償は制度の違いと順番を理解することが鍵
交通事故によって休業を余儀なくされた場合、「自賠責保険の休業損害補償」と「傷病手当金」の両方が制度上存在しますが、同時に受け取ることはできません。まずは自賠責への請求を行い、必要に応じて傷病手当金で差額を補填するという順序が基本となります。
事前に保険会社や健康保険組合に確認し、損をしないための適切な手続きを踏むことが、経済的な不安を最小限に抑えるコツです。