刑法の学習において「原因において自由な行為(因自行為)」の理論は難解であり、多くの司法試験受験生が混乱するテーマの一つです。本記事では、構成要件モデルと責任モデルの違いや使い分けのポイント、そして各モデルの意義について体系的に解説します。
原因において自由な行為(因自行為)とは
因自行為とは、自ら責任能力のない状態(例:酩酊)に陥り、その後に犯罪を実行するような場合を指します。たとえば、酒に酔って他人を傷害・殺害した場合、酔っていた時点では責任能力が欠如していたが、酩酊前にその行為を予見・計画していたとするケースです。
このような事案では、通常の責任能力の判断だけでは罪を問えなくなるため、特別な理論が必要となります。
構成要件モデルの特徴と適用場面
構成要件モデルは、「行為時点ではなく、原因行為の時点に着目して構成要件該当性を認定する」理論です。酩酊に至る行為そのものを、たとえば殺人罪の構成要件的行為として評価します。
適用例としては、計画的に酩酊して凶行に及ぶような場合が挙げられます。つまり、「殺意をもって酩酊した」ようなシナリオにおいて、「酩酊前の行為自体を殺人の実行行為とみなす」理論です。
このモデルは、殺人罪や傷害致死罪など、重い結果を伴う故意犯に適用されやすい傾向にあります。
責任モデルの特徴と適用場面
責任モデルは、「構成要件該当性は酩酊後の行為を基準とし、責任能力だけを原因時点に遡って判断する」という理論です。つまり、「実行行為は責任能力喪失中でも、責任はその前段階の意思決定に基づいて問える」とされます。
このモデルは、酩酊が計画的ではなくとも、重大な結果を予見し得た場合などに利用されることが多く、たとえば「飲酒運転による過失致死」や「酩酊中の暴行致傷」などが該当します。
両モデルの使い分けと併用の可能性
一般的には、「前者(構成要件モデル)はより厳格」で「後者(責任モデル)は柔軟」だとされ、適用しやすさは責任モデルが上です。そのため、構成要件モデルで成立が困難な場合、責任モデルでの成立を検討することもあります。
判例では明示されていないものの、学説上は「いずれかのモデルで構成できれば可」とする見解も強く、両モデルを併存的に検討することは理論上可能とされます。ただし、法的安定性や罪刑法定主義の観点から、濫用は避けるべきとされます。
構成要件モデルの存在意義と役割
責任モデルが柔軟で実務的に採用されやすい一方で、構成要件モデルは「厳格な規範としての役割」を担っています。特に、故意の明確な存在や高度な計画性がある場面では、構成要件モデルでの立証が妥当とされ、理論的な説得力や犯罪構成の厳格性を担保する意義があります。
また、大学の講義や司法試験対策では「両モデルを検討する癖をつける」ことが求められています。これは単なる知識の網羅だけでなく、判例分析や論述の説得力を高めるためでもあります。
まとめ:場面ごとの柔軟な使い分けと法的安定性のバランス
原因において自由な行為における構成要件モデルと責任モデルは、それぞれ異なるアプローチで刑事責任を問うものです。実務では責任モデルの適用が主流ですが、構成要件モデルも理論的に重要な意味を持っています。事案ごとの事実関係や故意の程度を踏まえ、柔軟に検討することが求められます。司法試験やロースクールの学習では、両モデルを意識的に比較しながら、バランスの取れた答案構成を目指しましょう。