未成年が関与した犯罪事件について、報道機関が実名や顔写真を掲載する行為には慎重な配慮が求められます。少年法や名誉毀損の観点から「どこまでが許される報道なのか」「違反した場合に訴えることができるのか」など、多くの疑問が寄せられます。この記事では、少年法61条を中心に、未成年の実名報道に関する法律上の論点を整理していきます。
少年法61条とは?報道の自由との関係
少年法61条は、「家庭裁判所の審判に付された少年(20歳未満)の氏名、住所、職業、容貌等を報道してはならない」と定めています。これは、少年の更生を優先するという少年法の理念に基づいています。
ただし、同条には罰則規定が存在せず、違反しても刑罰は科されません。そのため、報道機関の自主規制によって運用される部分が大きく、法律的には“禁止”というより“努力義務”に近い性質を持ちます。
特定少年とは?例外的に報道されるケース
2022年4月の法改正により、18歳・19歳の「特定少年」については原則として少年法の保護対象とされますが、重大犯罪などの場合には検察送致(逆送)後、実名報道が可能とされました。
これにより、特定少年が殺人・強盗などの重大事件で起訴された場合には、実名・顔写真付きで報道される例が増えています。これは「社会の知る権利」とのバランスを取るためです。
罰則がなくても名誉毀損で訴えることは可能か?
少年法61条に罰則がないとはいえ、報道が行き過ぎた場合には「民事訴訟として名誉毀損を訴える」ことは可能です。特に、誤報や必要以上にプライバシーを暴いた記事である場合、報道によって人格権が侵害されたと主張できる場合があります。
名誉毀損の成立には、「具体的な名誉が社会的に低下する恐れがある」「不特定多数に公表された」「公共性がないまたは報道の必要性を逸脱している」などの条件が求められます。
実例:実名報道が名誉毀損と認められた裁判例
過去には、ネット掲示板やSNS上で未成年の個人情報を拡散したケースにおいて、本人または親権者がプロバイダや発信者を訴え、名誉毀損が認められた例があります。
例えば、少年事件に関わったとして実名・顔写真・学校名などを投稿された少年の親が発信者を特定し、慰謝料請求を認められた判例も存在します。特に少年が起訴されなかった場合や、事件の内容が誇張されていた場合などには損害賠償が認められやすい傾向にあります。
報道側に求められるバランス感覚と責任
報道機関には「知る権利」と「更生支援」の両立が求められます。特に未成年の事件報道においては、社会的責任の大きさから報道倫理に基づいた判断が不可欠です。
現在では多くの新聞社やテレビ局が「少年の将来に配慮した報道指針」を設けており、実名や顔写真を出す際には厳格な社内審査を行っています。
まとめ:少年法と名誉毀損は両立する問題
少年法61条は未成年の更生を守るための条文ですが、罰則がないからといって無制限な報道が許されるわけではありません。過度な報道は名誉毀損として民事訴訟の対象になり得るため、本人や保護者が訴える権利を持っています。
報道する側も受け手も、法律だけでなく倫理的な視点を持つことが、健全な情報社会を築く第一歩です。