不動産登記において、相続と遺贈の関係、さらに遺言執行者の権限については、令和の改正により実務でも注目されるポイントとなっています。司法書士試験でも問われやすいこの論点について、過去問(平成20年午後24問エ)の事例をもとに、最新の法令や判例を踏まえながら解説します。
問題の背景:包括遺贈と共有登記
ある未登記不動産において、被相続人の死亡後、相続人AとBが共有名義で保存登記を行ったケース。後に、Bが包括遺贈により当該不動産全体の取得者であり、しかも遺言執行者に指定されていたことが判明した場合、BはAからの持分移転登記を申請できるかが問題とされています。
平成20年の出題時には「申請不可」と判断されましたが、令和の民法・不動産登記法の改正がこの結論に影響するかが焦点となります。
令和改正前の考え方と問題の誤り理由
従来の判例・通達の下では、保存登記後の持分移転については「相続による承継が一旦成立した後であり、遺言による包括遺贈の効果が及ばない」という形式的な立場が強く、遺贈登記を遡及的に主張することは困難とされていました。
したがって、遺贈によって本来はBが単独所有者であったとしても、Aからの移転登記を申請するには、A自身の協力(共同申請)が必要とされ、B単独では申請不可という扱いになっていました。
令和5年民法・不動産登記法改正による影響
令和5年の改正によって、遺言執行者の登記申請権限がより明確化されました。特に包括遺贈において、受遺者が遺言執行者を兼ねている場合には、登記手続き上の申請権限が明示的に認められるようになった点は大きな変化です。
不動産登記法第69条の3第2項の新設により、「遺言執行者が登記権利者または義務者を兼ねる場合」にも、その者が単独で登記申請できることが明文化されました。これにより、旧来の制約が大幅に緩和されたといえます。
本ケースへの当てはめ:単独申請は可能か
令和5年改正法を前提とすれば、Bは「受遺者」かつ「遺言執行者」として、相続人Aの名義となっている持分部分についても、単独で「持分全部移転登記」を申請することが可能となります。
これは、法改正によって「真正な権利関係に即した登記の実現」が重視されるようになったためであり、形式的に共有登記がなされた場合でも、実体的にはBが全ての権利を有する以上、それを正すための登記申請が許容されるようになったのです。
実務上の注意点と申請書類の工夫
ただし、実務では遺言書の写し、遺言執行者の就任証明書、包括遺贈を裏付ける遺言内容、そして共有名義になっている登記簿の写しなど、丁寧な書類準備が求められます。
また、登記申請の際には、申請原因として「遺贈による持分全部移転登記」とし、登記原因証明情報において遺言書と遺言執行者の権限を明確に示すことが重要です。
まとめ:法改正による実体重視の傾向が進行
平成20年当時には誤りとされた選択肢も、令和5年以降の改正法制下では正しい解釈とされうる時代になっています。司法書士試験でも、今後はこのように過去問の結論が変わる可能性があるため、受験生・実務家ともに最新の法令動向を押さえておくことが不可欠です。
本ケースでは、Bは遺言執行者兼包括受遺者として、AからBへの持分全部移転登記を単独申請できると考えるのが現行法に即した理解となります。