親の相続に際して、家族間での相続のバランスを取るために「相続放棄」を検討するケースが増えています。今回は「母が住み続ける家を守るために子が相続放棄をした場合」の影響や注意点を、一次相続・二次相続の視点から整理します。
▼相続の基本構造:父死亡時の法定相続割合
父が亡くなった場合、配偶者である母と子2人が法定相続人となります。
この場合の法定相続割合は。
- 母:1/2
- 子1:1/4
- 子2:1/4
仮に不動産(自宅)のみが主要な財産であれば、母が名義を100%にするには、子2人の持分(1/4ずつ)を取得するための代償金が発生する可能性があります。
▼子が相続放棄した場合の影響
子のうち1人が相続放棄をすると、その子は最初から相続人でなかったことになります。
この場合、法定相続人は母と残る1人の子のみとなり、相続割合は。
- 母:2/3
- 子1:1/3
つまり、放棄をした子の持分(1/4)は母には移らず、他の兄弟(相続人)に移る点が注意ポイントです。
▼子2人とも相続放棄した場合の帰結
両方の子が相続放棄した場合、次に相続権が移るのは直系尊属(祖父母)がいれば祖父母、いなければ兄弟姉妹などへ移ります。
そのため、母親が100%相続する形にはならず、放棄したことによってかえって第三者に財産が渡る可能性もあるため要注意です。
母が単独相続するためには、子が放棄するのではなく、「遺産分割協議」により持分を母に譲渡する(代償分割)方法の方が適しています。
▼相続放棄した場合の二次相続への影響
一次相続で相続放棄をしても、二次相続(母が亡くなったとき)では再び相続権が復活します。
つまり、放棄をしたからといって永久に財産を受け取れないわけではなく、母が亡くなった際には改めて相続人となります。
ただし、母の資産に不動産が多く、流動性が少ない場合には、相続人間で再び分割・換価などを協議する必要が出てきます。
▼実務的なアドバイスと注意点
- 相続放棄は家庭裁判所への申立てが必要で、3ヶ月以内に手続きが必要です
- 放棄により母の持分が自動で増えるわけではないため、分割協議の方が柔軟です
- 家を守るためには放棄よりも代償分割または生前贈与・遺言書の活用も選択肢
- 母が認知症になる前に名義移転を行うなどの計画的対策が望ましい
まとめ
子が相続放棄をしても、母の持分が増えるとは限らず、逆に他の法定相続人(兄弟姉妹等)に権利が移るリスクがあります。
母の生活を守る目的なら、放棄よりも遺産分割協議や代償分割の方が合理的です。
さらに、将来の二次相続を見越して、遺言書の整備や生前贈与も併せて検討しておくことをおすすめします。