2022年に施行されたいわゆる「AV新法」は、AV出演者の権利保護を強化することを目的として制定されました。この法律では、出演契約後であっても一定期間内であれば出演者が一方的に契約を解除できる権利が認められています。本記事では、この解除権に基づいて契約が破棄された場合、支払済みの報酬について返還請求が可能なのかについて詳しく解説します。
AV新法の概要と目的
AV新法（正式名称「性行為等を内容とする映像制作に関する適正な制作及び流通の確保に関する法律」）は、業界内での搾取やトラブルを防ぐことを目的に制定されました。特に出演者が精神的に追い詰められることなく契約を解除できるような保護措置が数多く盛り込まれています。
代表的な特徴としては、出演契約の解除権（無条件かつ違約金不要）が、撮影後1年間、販売開始後から6か月間、出演者に認められている点が挙げられます。
契約解除された場合の報酬返還について
AV新法に基づく契約解除がなされた場合、出演者に対して支払われた報酬を制作側が返還請求することはできません。これは、法律が出演者側の自由意思を最大限に尊重する設計になっているためです。
具体的には、「解除に伴い、出演者に金銭的負担を生じさせてはならない」とされており、出演者が受け取った出演料・交通費・衣装代なども返還義務の対象とはなりません。
返還請求が難しい法的根拠
AV新法 第7条及び第8条には、出演者の解除権と、その行使に伴う出演者の保護措置が規定されています。これらの条文に基づき、契約解除に対してペナルティや報酬の返還を求めることは民法上の不当条項として無効になる可能性が高いです。
また、出演者が未成年や若年女性である場合、より強い保護が働くため、制作側が請求訴訟を起こしても通らないケースが多く、逆に名誉毀損等で反訴されるリスクも伴います。
制作側が講じるべきリスク管理策
契約解除による損害を回避するため、制作側は以下のような対応策が推奨されます。
- 出演契約締結前に、丁寧な意思確認とカウンセリングを実施
- 契約書内に出演者の理解を深める内容を明記し、第三者立会いを導入
- 出演料は撮影後の一部後払い形式とする（ただし違法性がない範囲で）
ただし、契約書に報酬返還の条項を入れても法的効力はほとんど持たず、逆に出演者保護義務違反とされることもあるため注意が必要です。
出演者が注意すべき点
出演者が契約解除を希望する場合も、解除通知を文書（内容証明など）で行うことがトラブル防止に有効です。また、すでに公開された映像についての削除要求や流通停止依頼も法律上可能となっていますが、事業者側との協議や弁護士を通じた対応が必要になるケースもあります。
日本弁護士連合会の無料相談などを活用し、自身の権利を適切に行使することが重要です。
まとめ：出演契約解除と報酬返還の原則
AV新法に基づく契約解除が行われた場合、出演者は報酬を返す義務を負いません。この制度は、出演者の自己決定権と人権保護の観点から強く支持されています。
制作側も出演者も、この法律の意図を正しく理解し、法令に沿った誠実な運用を行うことが求められます。何かトラブルが発生した場合は、必ず専門家に相談をし、適切な対応を取りましょう。