AIは法学試験をどこまで解けるか?民法における相続人の認定と課題の解説

AIが法学試験にどこまで対応できるかは、AIの言語処理能力だけでなく、問題文の構造や前提条件の明示度にも大きく左右されます。今回は、ある大学の法学の試験問題を例に、相続人の認定やAIが間違いやすいポイントについて解説します。

相続法における基本構造の理解

民法では、相続の対象となるのは法定相続人に限られ、その範囲は配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹と順序づけられています。また、代襲相続や胎児の扱い、寄与分・特別受益など、数多くの要素が複雑に絡みます。

特に今回の問題では、複数の相続人の死亡や出生(胎児L)といった要素が含まれ、実務でも判断が難しくなる典型です。

AIが誤認する代表例:胎児Lの扱い

民法886条2項により、胎児は相続に関しては既に生まれたものとみなされますが、それはあくまで「生きて出生した場合」に限られます。今回のLは、出産中に一度も呼吸をせず死亡しているため、民法上の「人」には該当せず、相続権を持ちません。

AIがLを相続人として扱ってしまう誤りは、「胎児=常に相続人」という誤解から生じる典型的なミスです。

代襲相続とAIの処理限界

問題文では、E→F→Gという代襲相続が発生します。このような多段階の代襲をAIが正確に処理するには、文脈理解と親族関係の構築が不可欠です。

多くのAIモデルは、単一段階までは処理できても、三世代にわたる代襲相続となると抜け漏れや誤解が起きやすい傾向があります。

特別受益・寄与分の取り扱い

EがXから受けた400万円の贈与は特別受益に該当し、相続分に調整が必要です。これを考慮せずに分割すると、他の相続人に不公平が生じます。

また、Bの800万円返済分が債務控除とみなされない場合、AIはその分を遺産から控除せず、相続割合の計算を誤ります。寄与分として認められるか否かも、法的知識の応用が必要な部分です。

AIと人間の違い:論理的前提の組み立て

人間の法学部生や法律家は、問題文の文脈から「前提条件」「想定される事実」「法的評価」の3点を組み立てますが、AIは与えられた文言を表面的に処理する傾向があります。

つまり、問題文が明確に「Lは呼吸しなかったため、民法上の人ではない」と書かれていない限り、AIは法文の適用条件を自動判断できず、誤った前提で処理を続けてしまうことが多いのです。

問題文の改善とAIの補助的活用のすすめ

このような誤認を防ぐには、問題文に「法的判断を要する条件」を明示することが重要です。「Lは民法上の人に該当しない」など、法的立場をあらかじめ固定することで、AI・人間問わず判断の統一が可能になります。

また、AIを使って学習する際には、単に「答え」を求めるのではなく、なぜその判断が導かれたかの根拠を問い直す使い方が有効です。

まとめ:AIは補助にはなるが、法的判断には注意が必要

AIは法学学習の強力な補助ツールとなり得ますが、複雑な法的条件や相続関係の判断においては、まだ人間の論理的思考や精緻な読み取りに劣る点もあります。

特に、胎児の出生・死亡の定義や、代襲相続・特別受益・寄与分などの繊細な判定を伴う問題では、AIの回答を鵜呑みにせず、必ず法的根拠に立ち返って検討する姿勢が求められます。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール