「不倫」と「不貞」は日常会話では混同されがちですが、法的な意味においては明確に区別されます。本記事では、不倫そのものが民法709条の不法行為として損害賠償の対象となった裁判例が存在するのかについて検証し、判例ベースで解説していきます。
不倫と不貞行為の法的定義の違い
まず明確にしておきたいのは、「不倫」という言葉には法律上の定義が存在しないという点です。一般的には婚姻外の恋愛関係を指しますが、性的関係の有無までは含意されません。
一方で「不貞行為」とは、配偶者以外の者と自由意思に基づいて性的関係を結ぶ行為を指し、これは民法770条1項1号の離婚原因および709条の不法行為責任の根拠となるものです。
「不倫」単独で損害賠償が認容された判例はあるか?
結論から言えば、「性的関係を伴わない不倫(=交際・メール・デート等)」のみで不法行為として損害賠償請求が認容された裁判例は極めて限定的です。以下に、重要な参考判例を紹介します。
- 東京地裁平成18年9月27日判決(判時1973号144頁)
夫が既婚女性と頻繁に電話やメールを重ね、休日にも頻繁に会っていた。裁判所は性的関係を否定したものの、「婚姻関係の平穏を著しく害する一連の行動」であるとして、慰謝料30万円を認容した。 - 大阪地裁平成23年6月30日判決(判タ1367号199頁)
性的関係が明示的に立証されなかったものの、相手女性が既婚男性との親密な行動を繰り返し、妻に精神的苦痛を与えたと認定され、慰謝料50万円の支払いが命じられた。
いずれの判例も「不倫=性的関係がない」として判断されたものですが、裁判所は原告の婚姻生活が重大に侵害された点に着目し、不法行為責任を認めています。
「不倫」は不法行為にあたるか?判断基準とは
判例上、性的関係がなくても「婚姻共同生活の平穏を著しく侵害」する程度の交際があれば、不法行為として構成される可能性があります。裁判官が以下のような事情を総合的に考慮します。
- 頻繁な密会・連絡の回数
- 第三者が見て不貞を疑うような状況
- 配偶者の精神的苦痛の程度
- 関係が長期にわたって継続していたか
つまり、肉体関係の有無のみで判断されるわけではなく、「婚姻の実質的侵害」が重要な判断材料とされます。
「不倫」と名指しされる場合の訴訟戦略と証拠
「不倫」を理由に損害賠償を求める場合、主張内容が不貞行為(性的関係)を含むか否かで訴訟の方向性が変わります。原告が立証すべき証拠には次のようなものがあります。
- 頻繁なLINE・メール履歴
- 深夜や休日の密会の証拠
- ホテルや自宅の出入りを示す写真・動画
- 精神的損害を示す診断書(うつ・不眠など)
裁判では直接証拠(性交渉そのもの)を得ることは困難なため、間接証拠の積み重ねによって不貞や婚姻侵害の事実を推認させることが鍵となります。
まとめ|不倫だけでも賠償命令が下された例はある
「不倫=不法行為ではない」という考え方は一部正しいものの、実務上は、肉体関係がなくても婚姻関係に対する重大な侵害が認定されれば損害賠償が命じられる判例も存在します。
したがって、民法709条に基づく請求においては、「不倫」単独であっても、行動の内容と影響の大きさによっては違法性が認められ、裁判所が賠償命令を出すことは法理論上も実務上も成立しうるのです。