セクハラ単独で損害賠償が認められた民事判例は存在するのか?正確な理解のための法的考察

セクシャルハラスメント(以下セクハラ)は、職場や学校など様々な場面で問題となる行為ですが、刑法上の犯罪に該当しない場合でも、民事訴訟で損害賠償が認められることがあります。本記事では、「セクハラ」単独により損害賠償請求が認められた民事判例について、学術的・実務的な観点から解説します。

セクハラの法的性質と訴訟の枠組み

日本の法体系において「セクハラ」という言葉は刑法上の明確な構成要件を持たず、基本的には民法709条(不法行為)に基づき、加害者に損害賠償責任が問われることになります。

この場合、原告側は加害者による「身体的・精神的被害」が故意または過失により引き起こされたこと、損害が発生していること、そして因果関係を立証する必要があります。

セクハラに基づく損害賠償が認められた主要判例

判例データベース(判例タイムズ、LEX/DB等)において、「セクシャルハラスメント」を主たる請求原因として損害賠償が認容された裁判例はいくつも存在します。その中から代表的なものを紹介します。

  • 東京地裁平成13年3月30日判決(判時1754号97頁)
    職場内における男性上司の女性部下に対する継続的な性的言動について、慰謝料80万円の支払いが命じられた事案。刑事訴追は行われなかったが、セクハラとしての人格権侵害が認定された。
  • 東京高裁平成19年4月26日判決(労判932号80頁)
    上司からのセクハラ発言等によってPTSDを発症した女性社員が訴えを起こし、300万円の賠償が命じられた。セクハラ単独による違法行為として明確に認定された。
  • 大阪地裁平成21年5月29日判決(労判989号42頁)
    顧客の女性に対する身体的接触を含むセクハラ行為が、営業担当者の業務中に発生したとして、会社にも使用者責任が認められた(330万円の賠償)。

これらはすべて、刑事事件化されず、行政罰にも該当しない事案において、民事上の不法行為責任としてセクハラを明確に認定し、慰謝料請求を認容したケースです。

名誉毀損や条例違反との区別について

セクハラに関する判例を検討する際、注意すべきは「名誉毀損」や「管理責任(使用者責任)」の損害賠償と混同しないことです。多くの判例では、名誉毀損等と併せて主張されることが多いですが、「セクハラによる人格権侵害」として独立して認定されるものも明確に存在します。

裁判官は因果関係と精神的損害の程度を慎重に判断し、慰謝料相場も数十万円から数百万円と事案ごとに異なります。

セクハラ訴訟で勝訴するために必要な立証

原告側は、証拠(録音、メール、LINE、証言等)をもとに加害者の言動が「性的な性質を持ち、相手の意思に反する」ものであることを立証しなければなりません。

被告側が「合意があった」「誤解である」と反論したとしても、原告側の精神的苦痛や医師の診断書が提出されることで、違法性の認定に至るケースが多いです。

まとめ|セクハラ単独による賠償判決は存在する

結論として、「セクハラ単独」により損害賠償が認容された民事判例は複数存在します。刑事事件や条例違反を伴わずとも、民法上の不法行為責任として十分に認められ得るものであり、判例としても蓄積されています。

判例の引用を行う際は、名誉毀損や管理責任と混同せず、判旨の中でセクハラ自体が違法と認定された部分を正確に把握することが重要です。

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