同時傷害の特例とは?因果関係が不明な場合でも傷害罪が成立する条件を解説

刑法における「同時傷害の特例」は、複数の者が同時に暴行を加えた結果、特定の加害者と傷害との因果関係が不明でも傷害罪が成立するという重要な規定です。この記事では、この特例が認められるための要件や具体例を交えて詳しく解説します。

刑法第207条の「同時傷害の特例」とは?

刑法第207条は、「数人が同時に暴行を加えた場合において、いずれの者の行為によって傷害が生じたか明らかでないときは、各人を傷害の罪に問う」と規定しています。これは、実行行為者が複数いて、個々の行為による結果の分離が困難な場合に適用される規定です。

言い換えれば、傷害の結果は出ているが、「誰がその傷を負わせたか」までは明らかでない場合に、暴行に関与した者すべてに傷害罪の責任が課せられるのです。

同時傷害の特例が適用されるための要件

  • 複数人による暴行が同時に行われていること
  • 被害者に傷害結果が生じていること
  • どの加害者による傷害かが明確に特定できないこと

この3点が揃うと、たとえXの殴打によって傷害が直接生じたと証明できなくても、YやZとともに加えた暴行が同時であれば、Xも傷害罪として処罰されます。

実例:因果関係が不明でも傷害罪が成立したケース

例えば、複数人が取り囲んで一斉に暴行を加えた状況で、被害者が骨折した場合。医師の診断でも「どの打撃で折れたか」は判断できなかったとします。このような場合、「同時傷害の特例」が適用され、全員が傷害罪に問われるのです。

また、XとYが同時にAを殴り、Aが頭部を打って意識を失ったが、どちらの打撃が原因か分からない場合も、この特例に該当する典型例です。

特例が適用されない例:同時性の欠如

仮にXが殴った後、数分置いてYが追って暴行したような場合は「同時性」が認められず、同時傷害の特例は適用されません。

また、Xが単独で暴行し、Yは現場にいたものの暴行に参加していなかった場合なども、傷害罪として問うにはXと傷害結果との因果関係の証明が必要になります。

証拠がないときの検察の立証戦略

被疑者が複数存在し、因果関係の立証が困難な場合、検察はあえて刑法207条を援用することで「処罰の公平性」を保ちます。この戦略は、裁判所でも比較的広く受け入れられています。

ただし、あくまで「同時」という時間的・場所的近接性が必要であり、現場状況の供述や目撃証言が鍵となります。

まとめ:因果関係の証明が困難でも刑罰を科す仕組み

同時傷害の特例は、暴行による傷害結果が発生しているにもかかわらず、実行行為との因果関係の証明が困難な場合に備えた刑法の工夫です。

特に集団暴行事件では、共犯的処罰の観点から有効に機能しており、加害者側の逃げ道を防ぎ、被害者の救済を後押しする重要な規定となっています。

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