国際社会における戦争犯罪や人道に対する罪を裁く場として設置された国際刑事裁判所(ICC)。本記事では、特に非締約国が関与するケースにおいて、ICCがどのように管轄権を行使できるのかを、わかりやすく解説します。
ICCの設立背景と基本的な機能
国際刑事裁判所(ICC)は、ローマ規程(Rome Statute)に基づき2002年に設立された国際機関で、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪といった重大犯罪を裁く常設の裁判所です。
この裁判所は国家の同意がなくても一定の条件下で個人を訴追することができるため、特に国家が国内での訴追を怠る場合などに国際的な法の空白を埋める役割を担っています。
締約国・非締約国とは?
ローマ規程に署名・批准している国はICCの「締約国」と呼ばれ、規程に拘束されます。2025年現在、123か国が締約国です。日本、B国(仮)などは締約国である一方、アメリカ、中国、ロシア、インドなどは非締約国です。
非締約国であっても、ICCに関連する国際的な規範から完全に自由というわけではありません。
【ケース1】A国が非締約国、B国が締約国の場合
このような状況では、犯罪行為がB国の領域内で行われた場合、ICCはB国の領域主権に基づいて管轄権を行使できます。ローマ規程第12条第2項(a)により、「犯罪が締約国の領域内で行われた場合」、加害者が非締約国の国民であってもICCは起訴できます。
したがって、B国がICCに付託すれば、ICCはX(A国の国民)に対して管轄権を持ち得ます。
【ケース2】A国・B国ともに非締約国の場合
このケースでは通常ICCは自動的には管轄権を持ちません。ただし、次のような例外的状況が考えられます。
- 国連安全保障理事会による付託(ローマ規程第13条(b)):安保理が国際の平和と安全への脅威と認定すれば、締約国でなくても事件をICCに付託できます。
- 当事国による一時的な同意(ad hoc declaration):ローマ規程第12条第3項に基づき、非締約国が特定の事件に関してICCの管轄を一時的に受け入れることができます。
例:ウクライナは非締約国でしたが、2013年と2014年の政変に関連してICCの管轄を一時的に認めたことで、ロシアによる行為が調査対象となりました。
補足:国家と個人の責任の違い
ICCは国家ではなく「個人」を対象に訴追します。つまり、A国そのものではなく、A国の国民であるXが責任を問われる形になります。これにより、国家間の主権問題を回避しながらも、人道に対する罪などに対処可能となっています。
まとめ:非締約国でもICCの対象になるケースはある
ICCの管轄権は、締約国の領域での犯罪、あるいは国連安保理による付託があれば、非締約国の国民に対しても及ぶ可能性があります。A国が非締約国であっても、犯罪がB国(締約国)で行われた場合、または安保理が関与した場合には、XはICCによって訴追される可能性があります。
したがって、ローマ規程に加入していない国家の関与であっても、国際人道法違反行為に対する国際的な法の裁きは避けられないことがあります。現代の国際法において、「主権」と「正義」のバランスは常に問われ続けています。