公共事業の用地買収によりやむなく土地や建物を手放すことになった場合、多くの人が気になるのが「引っ越し費用は誰が負担するのか?」という点です。とくに、契約前の話し合いの中で「引っ越しもこちらでやります」と言われていたにも関わらず、後になって「言っていない」と否定されるケースもあり、トラブルになることがあります。本記事では、そうしたケースにおいての法的な見解と、泣き寝入りせずに取れる対策について詳しく解説します。
公共事業による土地収用における費用の扱い
公共事業(例えば道路の拡幅工事など)に伴い土地を売却する際、「補償対象」になるのは原則として不動産の価値や移転補償費です。建物の取り壊し費や移転費(引っ越し費用)も補償対象になることがありますが、これは明確に契約に記載されていることが必要です。
今回のように「家財の量が多く、4トントラック2回分が必要」な場合、それが補償対象として計上されていないのであれば、買主側(県や企業)による好意的な措置だったか、交渉の一部だった可能性があります。
口頭で「引っ越しもやる」と言われた場合の法的効力
不動産や金銭のやり取りを含む契約行為では、書面に記載された内容が最も重視されます。たとえ事前に「引っ越しはこちらで対応します」と口頭で言われていても、それが契約書に反映されていなければ、基本的には法的な強制力はありません。
ただし、例外として、交渉時のやり取りを録音していた場合や、相手が明確に「引っ越し費用も負担する」と表明していた証拠が残っていれば、「信義則違反」や「錯誤による契約無効」を主張できる可能性があります。
実例:契約前の説明と実際の内容が食い違ったケース
たとえば、ある地方自治体による土地買収交渉の際、契約前に「引っ越しは全部お任せください」と営業担当が発言したものの、契約書には記載されていなかったという事例では、最終的に録音の存在が決め手となり、一部費用が補償されたケースもあります。
重要なのは、「誰が、いつ、どのような場面で、どんな言葉で約束したか」をできるだけ正確に記録しておくことです。
県や企業に交渉を持ちかける際のポイント
泣き寝入りを避けるためには、以下のような対応が有効です。
- 録音内容を確認し、引っ越し費用について明言された発言の有無を特定する
- 引っ越しが売買交渉における条件だった旨を文書で再度主張する
- 市民相談窓口や弁護士への無料相談を利用し、法的アドバイスを仰ぐ
また、県が企業に指名をしている場合であっても、直接の契約主体がその企業であれば、あくまでその企業との間での合意が重要になります。
補償内容に納得がいかない場合の救済手段
補償金額や条件に納得がいかない場合は、以下の方法で異議申し立てが可能です。
- 公共嘱託登記土地家屋調査士協会などの第三者機関への相談
- 引っ越しに必要な金額の見積もりを複数取得し、客観的な根拠として提示
- 調停や訴訟を通じて、契約の経緯や口約束の効力を争う
手間や費用はかかりますが、生活の根幹を支える重要な権利として、自身で主張していくことが必要です。
まとめ:書面が全てではないが、証拠が鍵を握る
公共工事に伴う土地売却において、「引っ越しも対応します」と言われたとしても、それが契約書に記載されていなければ法的拘束力は弱くなります。しかし、録音や証言が残っていれば、「信義則違反」や「契約上の錯誤」を根拠に交渉・請求が可能です。まずは録音を確認し、必要に応じて弁護士に相談することをおすすめします。