制限行為能力者の「現存利益」制度とは?不公平に感じる理由とその正当性を法的に解説

未成年者や成年被後見人など、法的に保護されるべき立場の人々には、民法上「現存利益」に限って返還義務を負うという特例があります。これを「ずるい」「不公平」と感じる人も少なくありませんが、この制度には重要な法的・社会的な意義があります。本記事では、現存利益制度の目的と機能をわかりやすく解説し、誤解を解消していきます。

「現存利益」とは何か?基本概念を押さえよう

民法121条の2に基づき、制限行為能力者が契約により得た利益のうち、現に残っている部分(現存利益)についてのみ返還義務を負うとされています。これは、契約自体は取り消すことができても、現に財産として残っているものは返すべきという考え方に基づいています。

例えば、未成年者が財布を買って使用していたが、既に紛失している場合、財布自体が現存していないため返還義務は生じません。しかし現金が残っていれば、それは返還の対象となります。

なぜ「現存利益」制度が必要なのか?

制限行為能力者は判断能力が未成熟または欠如しており、自由な意思決定が困難です。そのため、契約を自由に取り消せる権利が与えられ、保護されているのです。

仮に現存利益を超える返還義務を課すとすれば、制限行為能力者が詐欺的な取引や高額契約の被害者となった場合でも、多額の損害を被るリスクが残ります。これは本来の保護目的に反する結果をもたらします。

「ずるい」「有利すぎる」と感じる理由

現存利益に限って返還すれば、制限行為能力者が財を使い切れば返さずに済むことになり、相手方が不利益を被るのではという疑問も生じます。特に相手方が制限行為能力者と知らずに契約した場合、この制度は一見不公平に映るかもしれません。

しかし、契約相手方も制限行為能力者と契約する際はリスクを認識する必要があり、社会全体として弱者保護の観点から制度が設計されているのです。

裁判例にも見る「現存利益」の適用実務

判例(最判昭和43年2月27日)でも、「現存利益とは財産的価値を有するものに限る」とし、すでに消費された利益には返還義務がないとされています。

たとえば、飲食代として使ってしまったお金や、破損した物品は現存利益ではなく、返還義務を負いません。一方、手元に残っている預金や物品は対象となります。

現存利益制度のバランスと代替制度の可能性

制度は制限行為能力者保護を重視する一方で、相手方保護とのバランスも求められます。例えば、相手方に詐欺や不法行為が認められた場合、損害賠償請求が別途成立することもあります。

また近年は成年年齢引き下げ(18歳)や成年後見制度の運用が注目されており、今後は「本人の自立支援と責任」のバランスがより一層問われる場面も増えてくるでしょう。

まとめ:現存利益は「ズルい」のではなく、合理的な保護制度

現存利益制度は、社会的弱者である制限行為能力者を守るために必要な制度です。不公平に見える側面はあるものの、その背後には判断力の未熟さ・生活保護の観点があるのです。

一見理不尽に見える法制度も、その趣旨を理解すれば納得できる部分が多くあります。法律は単なる条文でなく、人を守るための仕組みでもあることを再確認しておきましょう。

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