即時取得と要件事実の構造を正確に理解する:民法192条~194条における抗弁・再抗弁の整理

民法192条から194条にかけて規定される即時取得制度は、所有権に基づく返還請求訴訟において、極めて重要な抗弁構造を形成します。この記事では、即時取得を巡る主張立証責任と要件事実論の整理を、法学的な立場からわかりやすく解説します。

即時取得(192条)は「抗弁」として機能する

まず、原告が所有権に基づく返還請求をする場合、所有権の取得および占有者による不法占有が要件事実となります。これに対して、被告が「即時取得(192条)」を主張する場合、それは原告の請求原因に対する抗弁(取得による占有の正当性)として機能します。

この即時取得の抗弁には、占有の平穏・公然・善意・無過失・取引行為といった要件が含まれます。これらの主張と立証は被告の責任であり、反証がなければ原告の返還請求は排斥されることになります。

盗品・遺失物の回復(193条)は「再抗弁」に該当

即時取得の抗弁が成立するように見えても、目的物が盗品または遺失物である場合、民法193条により本来の所有者は「2年以内」であればその物の返還を請求できます。これは即時取得を覆す「再抗弁」となります。

したがって、原告が盗品・遺失物であることと、占有開始から2年以内であることを立証すれば、再抗弁によって即時取得の効果は阻却され、返還請求は再び可能となります。

代価弁済(194条)は「再々抗弁」に位置づけられる

さらに、被告が「盗品や遺失物であっても、即時取得が成立し、その代金を支払って取得した」と主張する場合、民法194条により原告の返還請求を排除できる可能性があります。

この規定は、被告が「代価を支払った」ことを主張立証する必要があり、再々抗弁にあたると整理されます。つまり、被告側が再度、防御的に返還を拒む根拠を提示する段階です。

実際の訴訟構造における主張立証の流れ

要件事実の構造を段階的にまとめると、以下のようになります。

  • 原告(請求原因):所有権の取得、占有の事実、不法占有
  • 被告(抗弁):即時取得(192条)
  • 原告(再抗弁):盗品・遺失物であり、かつ2年以内(193条)
  • 被告(再々抗弁):代価弁済の有無(194条)

このように、訴訟での要件事実の配置は、原告と被告の主張が交互に積み重なる「応酬構造」によって構成されることがわかります。

裁判実務や判例の位置づけも重要

実務では、この要件事実構造が民事訴訟においてどのように扱われているかも確認すべきです。例えば、大阪地裁や東京地裁での返還請求事件において、即時取得の主張が抗弁として認められ、原告が再抗弁(193条)に失敗した事例も存在します。

また、民事実務体系や『要件事実マニュアル(法曹会)』などの文献では、この「抗弁→再抗弁→再々抗弁」構造が明確に整理されており、理解の補強に役立ちます。

まとめ:正しい理解と主張の順序が勝敗を左右する

即時取得に関する民法192条から194条の構造は、民事訴訟での主張・立証の戦略に直結する極めて重要な論点です。質問で挙げられていた「即時取得→盗品・遺失物→代価弁済」の順序は、まさに抗弁→再抗弁→再々抗弁の正しい構造に基づいています。

要件事実論の本では簡略化されがちな点もありますが、上記の整理を理解することで、訴訟戦略上の誤解を避けることができます。

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