債務者が借金の返済を逃れるために財産を第三者へ不当に譲渡した場合、債権者がその行為を取り消すことができる制度が「詐害行為取消権」です。本記事では、債務者が市場価格より著しく低い価格で財産を譲渡した場合に、詐害行為取消権が成立するのかを具体的に解説します。
詐害行為取消権とは何か?民法の基本概念
詐害行為取消権とは、債務者が自己の財産を不当に減少させた場合、債権者がその行為を取り消すことができる民法424条に定められた権利です。主に、債務者が財産を隠匿したり、著しく不当な条件で譲渡したりする行為が対象となります。
この制度の目的は、債務者が支払い義務から逃れるために行う不正行為を防止し、債権者が公正に債権を回収できるようにすることにあります。
「著しく低価格での売却」は詐害行為に該当する?
仮にAが市場価値2,000万円の土地を、親しい関係のあるBに1,000万円で売却した場合、売却額が市場価格の半額であり著しく低いため、詐害行為と見なされる可能性があります。
このように、財産の過少譲渡は「対価の著しい不均衡」があるとされ、債権者が取消権を行使する正当な理由となり得ます。
取消の要件:主観的要素と客観的要素の両立が必要
詐害行為取消権が成立するには、以下の2つの要件が必要です。
- 客観的要件:財産の減少を招く行為であり、債権者に損害が及ぶこと
- 主観的要件:債務者が債権者に損害を加える意思(悪意)を持っていたこと、および受益者(B)もそれを知っていたこと
本件でいえば、AがCへの返済を免れるためにBに低価格で土地を売った場合、その意図が認定されれば詐害行為とされ得ます。
800万円分が確保できていれば取消できないのか?
この論点は多くの方が誤解しやすい部分です。仮にAがBに1,000万円で売却しても、Cが回収できる金額が800万円あるからといって自動的に詐害行為でなくなるわけではありません。
詐害行為かどうかは「財産の総額」や「他の債権者の有無」「譲渡の態様」など総合的に判断されます。特に唯一の財産が処分され、債務の弁済が困難になる場合、取消権の要件を満たす可能性は高いです。
実際の判例や実務での考え方
最高裁判例でも、市場価格より著しく安価な譲渡行為が問題となり、取消が認められた例があります。例えば、「時価2,000万円の不動産を700万円で譲渡→取消認容」といった事例が存在します。
このように、価格差が大きく、譲渡が形式的なものに見える場合、実務上でも取消の可能性が高まります。
まとめ:詐害行為取消権の判断は「価格」と「意図」が鍵
- 詐害行為取消権は債権者保護のための制度である
- 価格差が大きく不自然な売却は取消の対象となり得る
- 「債務の弁済が困難になる状況」があるかどうかがポイント
- 債務者と受益者の主観的要素(悪意)も判断材料になる
債務者の行動が正当な経済取引か、債権逃れの不当な行為かを見極めることが、取消権の行使において非常に重要です。