交通事故の被害者が仕事を休まざるを得なくなった場合、「休業損害」として逸失した収入を加害者側(通常はその保険会社)に請求できます。とくに個人事業主の場合、休業損害の計算や補償割合に疑問を感じることも多いでしょう。この記事では「年収÷365×通院日数×0.6」の式における0.6の意味と、それ以外の補償の可能性について解説します。
■ 休業損害の基本的な考え方
交通事故の被害によって働けなくなった期間に発生した収入の減少分を、加害者(または保険会社)に請求できるのが「休業損害」です。これは労働者だけでなく、個人事業主やフリーランスにも適用されます。
会社員の場合は給与明細を根拠に、個人事業主は確定申告書(青色申告決算書や収支内訳書)を元にして算出されます。
■ 「年収÷365×通院日数×0.6」の意味
この式のうち、「0.6」の係数は、実際に100%休業していたとは言えない場合に用いられる保険会社独自の内部基準です。例えば通院が週2〜3回程度で、業務の一部は継続していた可能性がある場合、「完全に働けなかった」とは言えないとして、休業損害の支払額が調整されます。
この係数は法律で決まっているわけではなく、実情や交渉によって変動します。
■ 0.6では納得できない場合の対処法
提出書類や診断書、通院状況から「実質的に仕事ができなかった」と主張できる場合は、保険会社に対して係数の引き上げ(0.8や1.0)を交渉する余地があります。
また、交通事故に精通した弁護士に相談することで、適切な交渉や損害の立証方法をアドバイスしてもらうことも可能です。
■ 自己申告の注意点と証拠の重要性
保険会社は「通院していた日以外も業務を継続できたのでは」と疑う傾向があります。したがって、次のような証拠が重要です。
- 休業中の売上が著しく減少している証明(帳簿・取引履歴)
- 業務不能の内容を明記した医師の診断書
- 通院頻度や拘束時間のわかる通院証明書
これらの証拠を用意することで、係数の見直しを求める根拠になります。
■ 実例:フリーランスデザイナーの休業損害交渉
あるフリーランスのデザイナーは事故で腕を骨折し、2カ月間作業ができませんでした。当初、保険会社からは0.5の係数を提示されましたが、通院回数の多さ、納期遅延によるクライアントとのやり取り記録、収入減少の証明を提出した結果、係数は1.0に引き上げられ、満額が支払われました。
まとめ:0.6係数は絶対ではない。納得できなければ証拠と交渉がカギ
交通事故による休業損害における「0.6」の係数は、あくまで保険会社が提案する目安に過ぎません。通院日数や業務内容、被害の程度によっては、もっと高い補償を受けられる可能性もあります。
納得できない場合は交渉の余地がありますので、証拠の整備とともに、交通事故に詳しい弁護士への相談も検討しましょう。