契約に基づく売買で、引き渡された目的物が契約内容に適合しない場合、買主としては解除を含むさまざまな法的手段を講じることができます。しかしその際に、契約不適合責任を規定する民法第562条や564条を明示すべきか、あるいは一般的な債務不履行条文である第541条・542条を根拠とするだけで足りるのか、という点は学説・実務ともに注意すべき論点です。
契約不適合責任と民法562条・564条の位置づけ
民法第562条および564条は、2020年の改正民法によって導入された契約不適合責任に関する規定であり、買主が目的物の契約不適合について、追完請求・代金減額請求・契約解除・損害賠償請求などを行うための要件や手続きが定められています。
これにより、従来の「瑕疵担保責任」概念から脱却し、一般的な契約責任(債務不履行)に包括された形となっていますが、契約不適合という特殊事情に即した規定として第562条等を踏まえることは重要です。
単に541条・542条だけで解除は可能か?
第541条は、履行遅滞や履行不能による契約解除を規定する一般条項です。形式上はこれに基づいて解除を主張することも可能ですが、売買契約において目的物が契約不適合であるという事例では、第562条を入り口として564条の解除要件を満たすことが原則とされます。
つまり、買主が解除を主張するには、追完請求ができないまたは追完に応じない状況、もしくは不適合の程度が軽微でないことを確認したうえで、第564条を根拠に解除を行う必要があります。
条文の選択が重要となる理由
実務においては、裁判所が「どの条文に基づいて主張しているか」を明確に確認する傾向があります。したがって、契約不適合を理由とする解除において第541条のみを示すと、「追完や減額請求を経るべきだったのではないか?」との指摘が入る可能性があります。
特に近年の判例では、第562条に規定された追完請求を飛ばして解除請求を行う場合、「相当の理由により追完を期待できない場合」や「契約の目的を達成できないほどの不適合」が求められるとする判断が多く、単なる履行遅滞と同一視するのはリスクがあります。
実例:民法562条を経由しなかった解除の判断
ある事例では、引き渡された住宅の天井に多数の雨漏りが確認され、買主が第541条を根拠に契約解除を主張しました。しかし裁判所は、「まずは追完(修理)を請求すべきであり、それを経ずに解除するには不適合の重大性を証明する必要がある」として、解除を無効と判断しました。
このように、実務上も条文の選択と論拠の構成が非常に重要であることがうかがえます。
まとめ:契約不適合による解除では562条・564条の理解が不可欠
契約不適合を理由に解除を行う際は、一般的な債務不履行(541条・542条)ではなく、契約不適合責任(562条・564条)を前提とする法的構成が妥当とされます。条文の選択ミスは請求棄却のリスクを高めるため、慎重な構成と明示が求められます。
実務上は「契約不適合の存在」「追完を求めた事実または求めることが不相当である事情」「不適合の重大性」などを丁寧に主張立証することが、解除請求を通す鍵となります。