高齢の夫婦が直面する問題のひとつに、どちらかが介護施設へ入所した際の費用負担があります。特に配偶者が認知症などで意思能力を喪失している場合、長年にわたり一方が支払いを続けてきた費用を、後から取り戻すことができるのかという疑問は現実的かつ重要な課題です。この記事では、法的な観点からその可能性と対応策を詳しく解説します。
配偶者の介護費用を立て替えた場合の請求権はあるか?
民法上、夫婦には相互扶養義務があるため、配偶者に代わって生活費や医療費を支払うことは基本的に「当然の行為」とされます。したがって、これに対する金銭的請求は原則として困難です。
ただし、「立替払い」としての意思が明確であり、支払い時点で返還を前提にしていた場合や、記録や証拠(例:支払明細書、日記、メール等)が残っている場合には、後日請求する余地が出てきます。
成年後見制度の活用と重要性
配偶者が認知症で判断能力を失っている場合、その財産を適切に管理・利用するためには「成年後見制度」の利用が有効です。家庭裁判所に申し立てることで後見人を選任し、その人が財産の管理や介護費用の支払いなどを行うことになります。
この記事のようなケースでは、施設利用料を今後は妻の年金や預金から支払う方針であれば、後見人がその支出を管理し、正当な使い方であることを証明する必要があります。自分が後見人となれば、妻の預金を正当に使っていけるようになります。
過去の支払い分はどうなるのか?返還の可能性
すでに支払った過去5年間・約700万円の施設費用については、民法上「求償権」や「不当利得返還請求」のような形で取り戻せる可能性もあります。ただし、配偶者間の支出であり、無償の扶養義務として見なされると請求は認められないことが多いです。
取り戻すには、「立替え」であったことを証明するのが重要です。例えば、「妻に貸したつもりだった」「施設費用は自分の貯金から出したが、本来は妻の負担である」などの認識があったことを示す書類や記録が必要となります。
妻の妹への貸金と相続対策
妻の妹に対して貸金がある場合、相続が発生するとその返済請求権も遺産に含まれます。ただし、妻が亡くなった際に法定相続人が妻の妹だけになれば、そのまま返済義務を負わずに終了してしまう可能性もあります。
これを防ぐためには、生前に公正証書などで「金銭消費貸借契約書」を作成しておく、または遺言書で「貸金は遺産から除外する」旨を記載するなどの法的対策が有効です。
今後の支払い負担を軽減するための方法
今後の妻の施設費用は、妻の年金と預貯金から支払う方針に変えることは可能です。その場合でも、形式的には「代理人」あるいは「成年後見人」としての立場が求められます。自分が高齢で施設に入る予定がある場合、家庭裁判所に後見人を選任してもらう手続きを行っておくと安心です。
また、後見人を自分ではなく第三者(司法書士など)に依頼しておくと、将来的な判断能力低下への備えにもなります。
まとめ|立替費用の返還には証拠が鍵、早めの法的準備を
夫婦間の施設費用の立替は原則として返還請求が難しいものの、意思と証拠次第では認められる余地があります。重要なのは、「将来的に返してもらうつもりだった」ことを示す書類や記録を残しておくことです。
また、今後の支払いに備えて、成年後見制度の活用、妻の妹への貸金記録、遺言書の整備などもあわせて進めていくことが大切です。弁護士や司法書士と連携し、法的な視点から今後の生活設計を見直すことをおすすめします。