家族が運転に適しているかどうかを判断するのは非常に難しい問題です。特にADHD(注意欠陥・多動性障害)などの特性がある場合、そのリスクや責任の所在について冷静かつ専門的な視点が求められます。
ADHDと運転のリスク:科学的な知見
ADHDの人は集中力や衝動性のコントロールに課題があり、運転時に以下のようなリスクがあるとされています。
- 一時的な注意散漫による事故の可能性
- スピード超過や信号無視などの衝動的な行動
- 感情のコントロールが難しく、激昂しやすい
米国の研究では、ADHDのある人は一般の人に比べて交通違反や事故の発生率が高いというデータもあります。
家族として止めることはできるのか?
家族が心配しても、本人が自発的に免許を返納しない限り、運転を法律的に強制的に止める手段は限られています。ただし、明らかに危険があると判断できる場合は、以下のような手続きを検討することができます。
- 運転適性相談:運転免許センターで相談を受け付けています。医師の診断書などが必要になることもあります。
- 家族からの通報:運転による危険行為が明白な場合、警察や市町村の高齢者・障害者運転相談窓口に通報することで、調査が行われることがあります。
事故を起こした際の法的責任
たとえADHDの特性があっても、事故を起こせば刑事責任・民事責任は免れません。相手を死傷させた場合、以下のような可能性があります。
- 過失運転致死傷罪:最高で7年以下の懲役または禁錮、または100万円以下の罰金
- 危険運転致死傷罪:危険な運転(極端なスピードなど)をして人を死傷させた場合、15年以下(死亡時は最長20年)の懲役
執行猶予がつくケースもありますが、それは被害の程度、反省の態度、保険加入の有無などが考慮された結果です。決して「安心して人を傷つけてよい」などという法制度にはなっていません。
任意保険で全て補償できるのか?
任意保険に加入していても、重過失や飲酒・危険運転の場合は保険金が下りないこともあります。また、保険会社が賠償しても後から本人に求償(費用請求)することもあり得ます。
さらに、精神的苦痛に対する慰謝料や、将来的な収入補償などを含めると、1件の人身事故で数千万円規模の支払い義務が生じることもあります。
現実的な選択肢:運転以外の交通手段の活用
もし本人の理解が得られるなら、運転をやめて以下の代替手段を使う提案をしてみましょう。
- 公共交通機関(電車・バス)
- 家族や福祉タクシーの利用
- 自転車・電動キックボード(交通法規順守を前提に)
実例として、ある40代の男性(ADHD診断あり)が運転をやめて福祉バスの定期利用を始めたことで、周囲とのトラブルが激減したという報告もあります。
まとめ:安全を最優先にした判断が必要
弟さんの人格や優しさとは無関係に、運転が社会的に危険と判断されるならば、運転をやめる選択肢も冷静に検討すべきです。
法律は「加害者の特性」ではなく「行為そのもの」に責任を問います。そして、事故で取り返しのつかない結果を招いてからでは遅いのです。家族の一員として、安全と命を最優先にした判断が求められます。