商法における代理商や支配人には競業避止義務が課されていますが、この義務違反がどのようにして損害賠償責任につながるのか、民法との関連も踏まえつつ体系的に解説します。
商法上の競業避止義務とは何か
商法23条1項や28条1項では、代理商や支配人が本人の同意なしにその営業分野で自己または第三者のために取引してはならないと定めています。これは、営業主体の利益保護と信頼関係維持のために極めて重要な規定です。
この義務は「契約に基づく義務」であるため、違反した場合には原則として契約上の責任を問われます。
民法415条による損害賠償責任の根拠
代理商や支配人との契約は、委任または準委任契約に該当するため、契約上の義務(=債務)の本旨に従った履行が求められます。したがって、民法415条の「債務不履行」に該当すれば損害賠償責任が発生します。
競業避止義務はこの「債務の本旨」に含まれるため、違反行為があった場合には415条を根拠に損害賠償が請求されるのが一般的です。
民法644条との関係性と善管注意義務
民法644条により、委任契約においては「善良なる管理者の注意義務」が課されます。競業避止義務違反は、この善管注意義務に違反するものと解釈されるため、結果として民法415条に基づく損害賠償請求が可能になります。
つまり、競業避止義務の違反=善管注意義務違反=債務不履行という構成で、法的責任を導けます。
損害額推定規定とその実務的意義
商法23条2項や28条2項には、競業によって本人が受けた損害額を推定する規定があります。これは、損害額の立証が困難であることを前提に、一定額(例:自己取引で得た利益)を損害として簡便に認定できるようにしたものです。
ただしこの規定自体は「損害額の立証責任軽減」に過ぎず、損害賠償請求の可否とは直接関係しません。請求の根拠はあくまで契約違反または債務不履行です。
裁判例に見る適用実務
過去の判例では、代理商が本人に無断で競業行為を行い、損害賠償を命じられたケースが多数存在します。裁判所は代理商が得た利益の額をそのまま損害とみなしたり、契約で予め定められた違約金を適用することもあります。
例えば、ある代理商が競合会社と契約して商品を販売した結果、元の本人企業から販売委託を打ち切られた案件では、逸失利益相当額の損害が認められました。
まとめ:契約と民法の構成で損害賠償責任は十分導ける
代理商や支配人の競業避止義務違反に対する損害賠償責任は、商法上の義務と民法上の債務不履行・善管注意義務との組合せによって十分に導けます。
民法415条と644条がそれぞれの根拠となり、加えて商法23条・28条がその内容を具体化していると理解するのが妥当です。