正当な医療行為はなぜ処罰されないのか?法的・倫理的観点からの考察

医療行為には常にリスクが伴います。治療がうまくいかなかったり、結果として患者が亡くなるケースもありますが、それだけで医師が処罰されるわけではありません。なぜなら、法律と医療倫理は「結果」よりも「手続きの正当性」や「合理性」に重きを置いているからです。

医療行為における「正当性」とは何か

正当な医療行為とは、①医学的に認められている方法に従い、②適切なインフォームド・コンセント(説明と同意)を得て、③善意と注意義務をもって行われた行為です。これらの条件が満たされていれば、たとえ治療結果が期待通りでなくても、法的責任は問われにくいのが実情です。

たとえば外科手術では、万全を期しても一定の合併症リスクがあります。それが発生しても、事前に患者がリスクを理解し同意していれば、結果だけで医師が刑事責任を問われることはありません。

刑法における「正当業務行為」の考え方

日本の刑法第35条では「法令または正当な業務による行為は、違法性を欠く」と定められています。つまり医師が適法に業務を遂行している限り、その行為は「違法性がない」とされ、犯罪にならないのです。

これは警察官が犯人を逮捕する際に多少の暴力を用いたとしても、それが職務の範囲内であれば処罰されないのと同様です。医師の医療行為も「社会的に許容された危険」として、一定の法的保護を受けています。

過失と正当性の境界線とは

医療過誤とされるのは、例えば必要な検査を怠ったり、治療手順を誤ったり、説明義務を果たさなかったケースです。このような場合は、たとえ善意であっても過失責任が問われ、民事上の損害賠償や刑事処分の対象になります。

一方、医師が最善を尽くしても救命できなかった事例は「正当な医療行為」であり、責任は問われません。この区別は、裁判でもよく争点になります。

実際の判例から学ぶ考え方

ある事例では、患者が術後に急変して亡くなったとして遺族が訴訟を起こしましたが、医師がガイドラインに沿った適切な措置を取っていたことが証明され、裁判所は無罪と判断しました。

逆に、術後の経過観察を怠ったケースでは、医師に注意義務違反があるとして過失が認定され、損害賠償が命じられました。

インフォームド・コンセントの重要性

患者に対して十分な説明を行い、リスクや代替手段を理解してもらった上で同意を得る「インフォームド・コンセント」は、医師を守る重要なプロセスです。

これは患者の自己決定権を尊重するだけでなく、医療側の法的リスクを軽減する役割も果たします。

まとめ:正当な医療行為が処罰されない理由

正当に行われた医療行為が処罰されないのは、「医療における許容されたリスク」と「社会的役割への信頼」に基づいています。医学的妥当性と法的正当性が認められる限り、医師の責任は免除されるのが原則です。

その一方で、医療ミスや過失があれば厳しく問われることもあり、両者の区別を理解することは患者と医療関係者双方にとって非常に重要です。

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