犯罪被害に遭った際、加害者との示談交渉により被害届や告訴状を取り下げるという選択肢を取るケースは少なくありません。しかし、加害者が和解内容を履行しなかった場合、被害者は再び法的手段をとることができるのでしょうか。この記事では、示談不履行と刑事手続の再開に関する注意点や対応策を詳しく解説します。
被害届と告訴状の違いと取り下げの法的意味
まず、被害届とは「犯罪被害に遭ったことを警察に知らせる届出」であり、告訴状は「加害者に処罰を求める意思表示」を含む刑事訴訟法上の正式な手続です。被害届は撤回しても再提出が可能ですが、告訴状は一度取り下げると原則として同じ事件に再提出することはできません(刑訴法第241条)。
このため、示談により告訴状を取り下げた場合、後から「やはり処罰してほしい」と思っても再度告訴することは非常に困難になります。
示談不履行と再度の告訴の可能性
示談書において「和解金を支払う代わりに告訴を取り下げる」旨の合意がなされていたにもかかわらず、相手が支払わなかった場合、法的には契約違反(債務不履行)として民事上の損害賠償請求の対象になります。
しかし刑事告訴については、一度取り下げてしまった以上、同じ事実に基づく再告訴は基本的に認められません。そのため、告訴を取り下げる際は、実際の支払いが完了するまでは取り下げを保留する方法を検討するのが安全です。
民事で損害賠償を請求する方法
示談書がある場合、それに基づいて訴訟を起こすことが可能です。具体的には、簡易裁判所における少額訴訟(60万円以下)や通常訴訟により、約束された金額の支払いを求めることができます。
また、調停制度(民事調停)を活用して第三者を交えて話し合いを行うことも有効です。これにより、支払意欲が低い相手でも合意に至る可能性があります。
再告訴できる例外的ケースとは?
例外的に、被害者が「重大な錯誤に陥っていた」「脅迫を受けた」などにより告訴取り下げを余儀なくされたことが証明できれば、再告訴が認められる余地があります。
たとえば、加害者が「支払う」と虚偽の約束をして意図的に騙したような場合、詐欺や強迫の余地も含めて法的再検討が可能となることもあります。こうした場合は、弁護士に相談して対応を検討しましょう。
示談交渉時に気をつけたいポイント
- 和解金は可能な限り先払いまたは分割払いの初回確認後に取り下げる
- 示談書には必ず支払期日・方法・違反時の対応策を明記する
- 示談の証拠(録音やメール記録)を残す
- 支払いが完了するまで告訴を保留する選択肢も弁護士と相談の上検討
こうしたポイントを押さえておけば、トラブルの再発を防ぎやすくなります。
まとめ
被害届や告訴状を取り下げる判断は、慎重に行うべき重要な法的行為です。特に示談が前提となっている場合、相手の支払いを確認する前に告訴を取り下げると、後戻りできなくなるリスクがあります。示談不履行となっても再告訴が難しいことを理解し、事前に弁護士など専門家と相談して対応策を講じることが大切です。