財産の調査や手続きでよく使用される「委任状」。しかし、家族が代筆しても問題ないのか、本人が書かないと法的に無効になるのか、不安になる方も少なくありません。今回は信託会社などから委任状作成を求められた際に注意すべきポイントを解説します。
委任状とは?その役割と法的意味
委任状とは、ある特定の事務作業を第三者に委託するために必要な文書であり、法律行為の代理や、意思表示の証拠として使用されます。特に不動産や金融、信託手続きなどでは広く用いられます。
書式には法的な厳格な決まりはないものの、「本人の意思に基づく内容であること」と「本人の署名(または記名押印)があること」が重要です。
委任状は本人以外が書いても良いのか?
実務上、委任状の文面やフォーマット自体は家族や第三者が作成しても問題ありません。しかし、署名・押印は必ず本人が行う必要があります。
たとえば、息子が父の委任状の文面をパソコンで作成し、父本人が内容を確認した上で自署し、印鑑を押したのであれば、それは有効な委任状とされます。
本人の代わりに署名してしまうとどうなる?
本人の意思を確認せずに署名した場合、私文書偽造や代理権濫用とみなされる可能性があります。刑法159条や民法の代理に関する規定が関わることもあります。
また、仮に善意であっても、受任者(信託会社など)が不正を疑った場合には、その委任状は無効扱いとなり、信頼関係にも影響します。
信託会社が「書いて」と言う背景と注意点
信託会社が「委任状を書いてください」と依頼してくる場合、多くは「文面作成までの補助」の意味であることが一般的です。しかし、署名・押印を他人に代行させようとする指示であれば問題です。
そのような要請があった場合は、「本人に確認し、自署・押印のうえ提出する形でよいか」を改めて確認し、不安があれば弁護士や司法書士に相談しましょう。
実例:家族が委任状を書いてトラブルになったケース
ある事例では、息子が父親の金融資産調査のために委任状を作成し、本人の署名なしで信託会社に提出したところ、金融機関側が「偽造の疑いあり」として調査が中止になり、後日、家族関係にも不信が生じたという問題が報告されています。
逆に、弁護士監修のもとで委任状を代筆(ワープロで作成)し、本人がきちんと自署・押印したケースではスムーズに手続きが進んだ例もあります。
まとめ:委任状は「誰が書くか」より「本人が署名するか」が重要
委任状の文面は他人が作成しても問題ありませんが、本人の意思が反映され、自署・押印されていることが最も重要なポイントです。信託や金融関連の手続きでは特に慎重な対応が求められます。
不安な場合や、信託会社の対応に疑問を感じた場合は、弁護士に相談することで安心して手続きを進めることができます。