株主総会において株主が議決権を行使できない場合、代理人を通じてその権利を行使することができます。ところが、定款によって代理人の資格を制限しようとする試みも見られます。本記事では、代理人資格の制限に関する法的な位置づけや、実務上の事例、そして判例の見解をわかりやすく解説します。
会社法における代理人制度の基本
会社法第310条第1項は、「株主は、代理人によって議決権を行使することができる」と規定しており、代理人の資格については明示的な制限がありません。つまり、株主が誰を代理人に選ぶかは原則として自由です。
この規定の趣旨は、株主が物理的に株主総会に出席できない場合にも、自らの意思を反映できるようにすることにあります。
定款による代理人資格の制限の実例
一部の企業では、定款において「議決権の代理行使は株主に限る」「議決権の代理人は会社の承認を得た者に限る」といった条文を設けている例があります。これにより、弁護士や親族などの第三者による代理が否定される事態が起こります。
たとえば、ある非上場企業が「議決権の代理人は株主に限る」と定款で規定していたケースでは、代理人として親族が出席しても議決権行使を認められず、総会での議決に参加できない問題が発生しました。
判例の立場:最高裁昭和56年3月27日判決
このような定款規定について、最高裁昭和56年3月27日判決は「株主の議決権を代理人により行使することは法が認めた権利であり、代理人の資格を定款により制限することはできない」と判示しました。
この判例は、会社法の趣旨に基づいて株主の議決権行使の自由を保護するものであり、定款による代理人資格の制限は無効であると明言しています。
学説と実務の評価
多数説の学説もこの判例を支持しており、株主の議決権の行使を不当に制限する定款規定は無効とすべきであるという考えが主流です。一方で、少数説として私的自治の原則に基づいて定款自由を一定程度認める見解もありますが、実務では通用しづらい立場といえるでしょう。
実務上は、会社が株主総会の事務を簡略化するために代理人の資格を制限したいと考える場合でも、法的効力をもたないことに注意が必要です。
具体例から学ぶ代理人制限の問題点
たとえば、株主の高齢化や外国居住などにより本人が出席できず、代わりに親族や専門家を代理人とした場合に、定款によりこれを排除すると、議決権の実質的な行使が妨げられます。こうした事態は株主の権利侵害に直結します。
このようなトラブルを回避するためにも、会社は定款の文言に慎重になるべきであり、株主総会の案内にも代理人の資格制限がないことを明示しておくのが望ましいです。
まとめ:株主の権利を守るための法的理解が重要
株主総会における代理人資格を株主に限るといった定款の規定は、最高裁判例により無効とされ、会社法の理念とも整合しません。株主の権利行使を広く認めることは、企業のガバナンス向上にもつながります。
会社の経営陣・法務担当者・株主それぞれが、会社法と判例の正しい理解に基づいて適切な株主総会運営を行うことが求められています。