傷害致死と医療ミスの違いを法律から読み解く|加害者と医師の責任の境界線

刑事事件や医療事故に関するニュースでは「傷害致死」や「医療ミス」といった言葉が登場しますが、これらの概念は法律上まったく異なる意味を持ちます。本記事では、傷害致死が成立する法的根拠や、医師が医療ミスをしても必ずしも罪に問われない理由について、法律的視点から詳しく解説します。

傷害致死とは?その構成要件を確認しよう

「傷害致死」とは、故意に相手へ傷害を加えた結果、被害者が死亡してしまった場合に成立する罪です。刑法208条の2に規定されており、「殺すつもりはなかったが、暴力の結果として死亡した」場合が典型です。

たとえば、殴った際の衝撃で倒れた相手が頭を打って亡くなった場合、加害者に殺意がなくても「傷害致死」が成立します。重要なのは、「死亡の原因をつくった初動」が加害者の行為である点です。

なぜ医師の医療ミスはすぐに罪にならないのか

一方、医師が治療中にミスをした場合、それが「業務上過失致死」や「重過失致死」に該当するには、高いハードルがあります。医療現場は複雑であり、単なるミスではなく「注意義務違反」が立証されなければ刑事責任を問われません

たとえば、一般的な医師なら絶対にしないような判断ミスをしたり、明らかにずさんな処置をしていたと証明されれば、刑事事件として立件される可能性があります。

被害者死亡時の因果関係の判断基準とは

刑事事件では、「因果関係」が重要です。暴行を受けて負傷し、病院に搬送されたが、医療ミスにより死亡したケースであっても、暴行による傷害がなければ死に至らなかったと判断されれば、加害者の責任は消えません。

つまり、医師の行為が直接的な死亡原因であったとしても、「そもそもの原因は加害者の暴行」である以上、その責任は問われるのです。

医師の責任が問われる場合の具体例

もちろん医師にも責任が問われることがあります。たとえば、適切な検査を怠ったり、誤った投薬により明らかに患者を死に追いやった場合には、「業務上過失致死」として刑事責任を負うことがあります。

過去には、誤って医療器具を体内に残したまま手術を終え、それが原因で死亡したケースで医師が有罪判決を受けた例もあります。

刑法上の公平性と合理性の観点から

法律は「結果」だけでなく、「行為の性質」や「予見可能性」にもとづいて責任を判断します。加害者は暴行という違法行為を自ら選んだ結果として被害者が死亡した場合、因果関係があればその責任は重くなります。

一方、医師は治療という「正当業務行為」の中で行動しているため、その責任を問うには慎重な判断が必要なのです。

まとめ|「誰が死亡に責任を負うか」は行為の性質と因果関係で決まる

傷害致死罪が成立するのは、加害者が暴力をふるったことで死亡の因果が始まった場合です。医師のミスがあったとしても、根本の原因が暴行にある限り、その責任を医師へ転嫁することはできません。法的な責任の所在は「結果」ではなく「原因と行為の性質」で決まるのです。

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