遺留分と生前の引き出し金──不明な支出は請求対象になるのか?

遺産相続では、被相続人が生前に誰かに財産を贈与していた場合でも、それが不当であると認められれば遺留分侵害額請求の対象になり得ます。本記事では、被相続人の生前の預金引き出しが遺留分にどう影響するのかを、実務的な視点でわかりやすく解説します。

遺留分とは何か?法的な基礎知識

遺留分とは、法定相続人に最低限保証される相続財産の取り分です。たとえば相続人が子一人なら遺留分は財産全体の1/2になります。遺言で他者に全財産を渡すと書かれていても、遺留分を請求する権利があります。

この権利は「金銭請求」で行われるため、他人に渡った財産を取り戻すのではなく、相当額を支払うように請求できます。

生前の預金引き出しは遺留分に含まれるのか?

生前に多額の現金が引き出されていた場合、それが贈与(プレゼント)であれば「特別受益」として遺産に加算される可能性があります。これを遺留分算定のための持ち戻しといいます。

たとえば預金残高が亡くなる直前に1000万円→500万円に減っていても、引き出された500万円の使途が明らかでない場合、それが相続財産に加算されるかが問題になります。

証拠がない引き出しはどう扱われるのか?

相手(愛人など)に贈与されていたと推測される場合でも、証拠がなければ法的に追及するのは困難です。とはいえ、通帳の出金記録や時期、引き出し方法(ATMか窓口か)を調べることで、調査や裁判の糸口にはなります。

たとえば「死亡の直前6か月で複数回大金を引き出している」「生活費に充てた形跡がない」「愛人と頻繁に会っていた」といった状況証拠があれば、民事訴訟で損害額として争うことは可能です。

通帳や証拠が隠されている可能性がある場合

もし他の相続人や第三者が通帳を隠している疑いがある場合は、家庭裁判所にて遺産分割調停や調査嘱託の申し立てが可能です。

また、銀行に対して「取引履歴開示請求」を行えば、被相続人の口座の出金履歴を入手できる可能性があります。この手続きには、相続人であることを証明する書類(戸籍や遺言など)が必要です。

公正証書遺言と遺留分の関係

公正証書遺言があっても、遺留分が侵害されていれば遺留分侵害額請求は可能です。ただし、請求できる期間には注意が必要で、「相続開始と侵害を知ってから1年以内、または相続開始から10年以内」に限られます(民法第1048条)。

また、「遺留分を放棄している」ような書面がある場合はその効力にも注意が必要です。放棄は家庭裁判所の許可が必要であり、任意の書面だけでは原則として法的効果はありません。

まとめ:証拠と戦略が遺留分請求のカギ

生前に引き出された預金も、場合によっては遺留分算定に加算される可能性があります。しかし、証拠がないままでは請求は難しく、銀行の履歴開示や家庭裁判所での調停を活用する必要があります。

まずは信頼できる弁護士に相談し、戦略的に証拠集めと請求手続きを進めましょう。隠された財産の追及は時間との勝負でもあります。

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