精子バンクや個人提供によって生まれた子どもが成長し、提供者が著名人や資産家だった場合、将来的に相続の問題が発生するのではと心配される方も少なくありません。この記事では、法的に親子関係がない場合の相続権の有無、SNS等での提供のリスク、そして国内外での制度の違いについて解説します。
民法における「法的親子関係」とは
日本の民法では、相続権を持つには「法的な親子関係」が必要です。たとえDNA上は親子であっても、法的に親として認められていなければ相続人にはなりません。
たとえば、精子提供によって生まれた子が提供者の戸籍に入っていない場合、その提供者が亡くなっても子どもには相続権は発生しません。法的には「他人」として扱われます。
精子提供と法的責任:提供者の立場
匿名の精子バンクから提供を受けた場合、提供者は法的責任を問われないよう制度が整備されています。一方、SNS等で個人的に精子を提供したケースでは、書面での合意があっても法律上のトラブルに発展することがあります。
実際に、提供者が「親であること」を主張されたり、逆に養育費の支払いを求められたという裁判例も存在します。法的整理が不十分な場合、提供者と母親との関係性によっては法的親子関係が成立するリスクもあります。
精子提供による出生と認知・嫡出性の扱い
嫡出子(法律上の婚姻関係にある夫婦の子)であれば、父親の同意のもとで人工授精が行われた場合、妻の出産した子は夫の子と推定されます(民法772条)。
一方で、非嫡出子(未婚女性が出産)であれば、提供者が「認知」しなければ親子関係は成立しません。したがって、SNS提供などで認知された場合には相続権が発生する可能性があります。
海外の制度と日本の現状の違い
欧米諸国では、生殖補助医療に関する法律が整備されており、ドナーの匿名性・責任・相続権の扱いについて明文化されているケースが多く見られます。特にイギリスやオーストラリアでは、子が成人後にドナー情報を知る権利も保障されています。
対して日本では、精子提供の法的基盤はまだ曖昧な部分が多く、民間クリニックや個人間取引が先行し、ルール作りが追いついていないのが実情です。
SNSでの精子提供に潜むリスク
- 認知されることで相続権が発生:提供者が養育関与していなくても、認知された時点で親子関係が生まれます。
- 養育費の請求リスク:後に母親や子どもから生活費等を請求される可能性。
- 戸籍やプライバシー問題:知らない間に自分の戸籍に子どもが記載されていたという事例も。
このようなトラブルを避けるためにも、個人間での提供ではなく、法的に整備された第三者機関や医療機関の利用が望まれます。
まとめ:精子提供と相続問題は「法的関係」が鍵
精子提供で生まれた子どもが相続権を持つかどうかは、「認知されているか」「嫡出かどうか」が判断基準になります。遺伝的な親子関係だけでは法的な権利は発生せず、相続問題に発展するリスクは限定的です。
ただし、SNSなど非公式なルートを通じて提供した場合、思わぬ責任や法的関係が発生する恐れがあります。将来的なトラブルを避けるためにも、法律の専門家や医療機関と連携し、適切な形で生殖補助医療を利用することが大切です。