スキー場やスノーボード場での事故は、冬季レジャーでよくあるトラブルの一つです。後方からの追突による負傷、長期通院、そして示談金の提示――そのようなケースで果たして提示された金額が適切なのかどうか、多くの方が疑問を抱くことでしょう。今回は、実例を元にスキー場事故における示談金の妥当性や評価ポイントを解説します。
スキー場事故における責任と賠償の基本
スキーやスノーボード中の事故では、民法の不法行為責任(民法709条)が基本となります。特に後方からの追突は、安全配慮義務違反として全面的な加害者責任が認められる可能性が高いです。
今回のケースのように、被害者がコースの端で座っていた場合であっても、加害者には前方不注意や徐行義務が課されているため、責任割合は大きく加味されます。
通院日数・入院・後遺障害と損害額の関係
損害賠償には次のような構成があります。
- 治療費(実費)
- 通院交通費
- 入院雑費(1日あたり1,500円目安)
- 休業損害(勤務先の証明または自営業者なら所得証明)
- 慰謝料(通院日数や後遺障害の有無で変動)
特に慰謝料の目安は「入通院慰謝料表」などで参考にされ、2日間の入院+通院80回(通院6か月)であれば、おおよそ90万円〜130万円程度の慰謝料が相場とされることがあります。
後遺障害が認定されない場合の影響
今回のように、医師から後遺障害の可能性を示唆されたものの「等級認定を受けなかった」場合、損害賠償全体に与える影響は大きくなります。
後遺障害等級が認定されれば、等級に応じて後遺障害慰謝料や逸失利益が追加され、数十万〜数百万円が加算される可能性もあります。しかし、「今回はやめた方がいい」という説明で申請を断念した場合、その分の補償が受けられず、総額としては低めの示談額にとどまるケースが少なくありません。
個人賠償責任保険と保険会社の提示額の妥当性
保険会社は裁判所基準より低い「任意保険基準」で示談金額を提示するのが一般的です。そのため、裁判で得られる額の7〜8割程度にとどまることが多く、60万円という金額も決して異常ではありません。
ただし、上記で述べたように、通院6か月・80回以上・後遺障害の可能性ありというケースでは、60万円ではやや少ない印象を受けることもあります。
示談金を受け取った後でも交渉はできる?
原則として示談書に署名捺印した場合、その後の追加請求は認められません。ただし、詐欺や強迫があった場合、または相手方が重要な情報を隠していた場合は無効主張が可能な場合もあります。
一方で、示談前であれば再交渉や、法テラスを通じた弁護士相談も有効です。
まとめ:60万円が妥当かは「通院内容と後遺障害次第」
今回のケースでは、通院頻度と通院期間を踏まえると、60万円の示談金はやや少なめと考えられる可能性があります。しかし、後遺障害が未認定である点や保険会社の基準であることを考慮すると、極端に不当というわけでもありません。
今後同様のケースに備えるためにも、通院記録や診断書の保存、後遺障害等級認定の検討、必要に応じた専門家相談を行うことをおすすめします。