交通事故の中でも特に重い罪とされる「ひき逃げ」。ニュースなどで加害者が「人とは思わなかった」と供述する場面を見かけることがありますが、それが本当に罪を軽くする要因になるのか、気になる方も多いでしょう。この記事では、ひき逃げにおける典型的な供述と、それが法的にどう評価されるのかについて、交通刑務の観点からわかりやすく解説します。
ひき逃げの法的定義と罰則
ひき逃げは、道路交通法第72条1項後段に定められる「救護義務違反」として扱われます。交通事故を起こしたにもかかわらず、被害者の救護や警察への報告を行わず現場を離れた場合に成立します。
刑罰は非常に重く、10年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、刑法上の「過失運転致傷罪」と併せて処罰されるケースも多く、懲役刑が2倍に達することもあります。
「人だと思わなかった」という供述の意図
加害者が「人だと思わなかった」と主張する理由には、主に以下のようなものがあります。
- 救護義務違反を免れたい
- 過失の程度を軽く見せたい
- 刑事責任の一部回避を狙いたい
しかし、こうした供述はあくまで自己弁護に過ぎず、すべてが認められるわけではありません。実際には現場状況や車両の損傷状況、防犯カメラの映像、目撃証言などの客観的証拠に基づいて判断されます。
裁判所はどのように評価するのか?
裁判において「人とは思わなかった」という主張が通るかどうかは、以下のポイントによって左右されます。
- 事故の衝撃の大きさ
- 被害者の位置や動き
- 加害者が現場を確認したか
- 事故後の行動(スピードを上げて逃走、車を乗り捨てる等)
実例では、夜間に物陰から飛び出してきた人をはねた事故で、加害者の「動物か物だと思った」という供述が認められ、ひき逃げの成立が否定された判例もあります。ただしこれはごくまれで、多くのケースでは「重大な過失」または「故意の認識があった」と判断され、救護義務違反が成立しています。
過去の事例に見る裁判結果
・ケース1:深夜の国道で歩行者をはねた被告が「物と接触したと思った」と主張→監視カメラ映像により人と認識できたとされ、懲役2年6ヶ月の実刑判決。
・ケース2:高速道路で自転車と接触し「振動はあったが何か分からなかった」と供述→現場に停車せず逃走していたため、ひき逃げ成立と判断され執行猶予付き懲役3年。
このように、供述だけでは無罪や減刑には至らず、行動の客観的な危険性と誠実性が大きく影響します。
もし事故を起こしてしまったら取るべき行動
万一、交通事故を起こしてしまった場合は、以下の行動を必ず取りましょう。
- すぐに車を止めて安全確保
- 負傷者の救護(119番通報)
- 警察への通報(110番)
- その場から立ち去らない
これらを怠ると、たとえ故意でなくても「ひき逃げ」とみなされ、重大な刑事責任を問われます。また、誠意ある行動は後の処分や示談にも大きく影響します。
まとめ:「人とは思わなかった」は基本的に通用しない
交通事故後に「人とは思わなかった」と供述しても、それが通用して罪が軽くなるケースはごく限られています。現場状況や行動の正当性が問われるため、供述だけでなく、誠実な対応こそが最も重要です。
事故後の逃走はひき逃げとみなされ、人生を大きく左右する重い刑罰に繋がることもあるため、冷静かつ適切な対応が何より求められます。