看護師免許を保有していても、介護士として就職した場合、その職務範囲には明確な違いがあります。現場で求められる業務や法的な責任について正しく理解することは、施設側・本人の双方にとって非常に重要です。この記事では、実際の就業形態と法的リスク、そして注意すべきポイントについて解説します。
介護職と看護職の業務範囲は法的に異なる
まず前提として、看護師は医療職、介護士は福祉職と分類され、業務範囲が法律により異なります。看護師は医師の指示のもと、診療の補助や医療行為が可能ですが、介護士は基本的にその範囲外の生活援助に限られます。
つまり、介護士として雇用された人が医療行為(例:注射・点滴・バイタルチェックなど)を行う場合、雇用契約上も法的にも問題が生じる可能性があります。
看護師免許があるだけでは「看護職」ではない
看護師免許を持っていても、職場に提出していなければ、その職場上は「看護職」として認定されません。そのため、業務命令として看護行為を命じること自体が不適切です。労働契約に基づいた職務外行為を指示されることで、労働契約法や安全配慮義務違反の問題にも発展することがあります。
実際に現場であった事例では、介護福祉施設で看護師免許保有者に対して、契約外の注射行為をさせて問題となったケースもあります。
看護師行為を行った場合に問われる可能性がある責任
介護士としての雇用であっても、看護師としての業務を行った結果、利用者に損害が出た場合、以下のような責任が問われる可能性があります。
- 業務上過失致死傷(刑法)
- 損害賠償責任(民法)
- 無資格者による医療行為として施設が行政指導を受ける
また、施設側も「違法な看護行為を黙認・指示していた」として指導対象になる場合があります。
「資格があるからできる」は通用しない場面も
医療行為は「免許」と「職務」の両方が整って初めて適法となります。つまり、資格を有していること=業務が可能というわけではなく、あくまで「看護師としての雇用・配置」が必要です。
仮に職場で「看護師免許持ってるならやって」と非公式に頼まれても、それに応じることは自己責任では済まない可能性があるため、慎重な対応が必要です。
現場で混同されやすいグレーゾーンの行為
以下の行為は介護と看護の境界でよく問題になるため、注意が必要です。
- インスリン注射・褥瘡処置 → 基本的には看護師業務
- 服薬確認 → 一部介護職でも可能だが、調剤や投薬は不可
- 吸引 → 看護師業務(特例研修を受けた介護士のみ可能)
現場の状況で例外もありますが、原則として資格・職種ごとの職務を厳格に守ることが基本です。
まとめ:看護師免許を持つ介護士は職務範囲を明確にすべき
介護士として就職した人が、たとえ看護師免許を持っていても、看護業務を行うには正式な職務としての配置と契約が必要です。現場で頼まれたとしても、違法性や責任問題が発生するリスクがあるため、業務範囲と契約内容を必ず確認しましょう。
必要であれば、施設側に明確な線引きを求めるか、労働組合や弁護士に相談することも有効です。