交通事故で軽微な接触があったにもかかわらず、相手が「ムチ打ち」と主張して病院に通い出した──このようなケースに直面すると、納得できない気持ちになることもあるでしょう。特に物損事故で処理していたはずなのに、急に人身事故へと切り替えられると、損害賠償や慰謝料の請求が発生することもあり、不安が広がります。この記事では、物損事故と人身事故の違いや、ムチ打ちの主張がどこまで通るのかについて、法的観点や実例を交えてわかりやすく解説します。
物損事故と人身事故の違い
物損事故は、車両や建物といった「物」に対する損害に限られる事故です。一方、人身事故は「人」に対するケガや後遺症が認められた場合に該当します。事故発生時点で物損として処理されても、後から医師の診断書を提出することで人身事故へと切り替えることが可能です。
そのため、「軽い接触だったのに」という加害者の感覚とは裏腹に、被害者が医師の判断のもとで受傷したとされれば、人身事故として正式に認められることがあります。
ムチ打ちの診断はどう決まる?
ムチ打ちは医学的には「頸椎捻挫」と診断されることが多く、自覚症状(首や肩の痛み、頭痛、吐き気など)をもとに診断されます。レントゲンやMRIで明確な異常が見つかるとは限らないため、客観的な証明が難しいことが特徴です。
そのため、わずかな衝撃でも本人が不調を訴えれば、医師が「ムチ打ち」と診断するケースも珍しくありません。これが、加害者側から見ると「お金目当てでは?」と感じられてしまう原因になっています。
示談交渉中に人身事故へ切り替えられる可能性
事故後しばらくしてからでも、診断書を警察に提出すれば物損から人身へ切り替えは可能です。保険会社との示談交渉中でも、診断書が提出されていなければ物損扱いのままですが、提出後は人身事故扱いになり、慰謝料の支払い義務が生じる可能性があります。
ただし、相手が病院に行ったというだけで、すぐに人身事故として成立するわけではありません。医師の診断と警察への届出があって初めて、人身事故として処理されるのです。
保険会社は被害者の主張をすべて認めるのか?
保険会社はムチ打ちなどの主張に対しても、その正当性を確認します。通院頻度や診断内容、事故の衝撃度などを総合的に判断し、「不自然な通院が続いている」「因果関係が不明確」と判断されれば、支払いを拒否または減額することもあります。
また、任意保険には専門の損害調査員がいて、医学的な見地から妥当性をチェックする仕組みもあるため、過剰な請求に対しては一定の歯止めがあるといえるでしょう。
加害者として取るべき対応とは?
たとえ軽微な接触であっても、人身事故として扱われた場合は誠実に対応することが求められます。一方で、「本当に妥当な請求なのか」を見極めるため、保険会社にすべてを任せ、自らは冷静に状況を記録しておくことが大切です。
万が一、不当な請求や詐病が疑われる場合には、弁護士に相談することで法的対処を進めることもできます。
まとめ:主張の裏には制度と手続きがある
事故の軽重や感情だけでは、人身事故かどうかを判断することはできません。相手が「ムチ打ち」と主張した場合も、医師の診断や警察への届出がなければ人身事故とは認められませんし、保険会社も精査を行います。
納得がいかないケースでも、まずは冷静に対応し、必要に応じて専門家の意見を求めましょう。