交通事故の現場では、被害者側が人身事故に切り替えて通院を続け、保険金を受け取るというケースが増えています。しかし中には、本来怪我がないにも関わらず、故意に病院へ通い続けて保険金を請求するという“偽装事故”に近い事例も存在します。この記事では、そうした行為の実態と法的な問題点を詳しく解説します。
痛くないのに病院へ通うとどうなる?
交通事故後、「痛みがある」と申し出ると、医師は基本的に患者の申告に基づいて診断を下します。むち打ち症などの自覚症状による診断は、画像検査に異常が見られないことも多く、医師は“痛い”という言葉を信じて治療を行うしかないのが現実です。
つまり、意図的に「痛い」と申告すれば、治療やリハビリが続くことになり、最終的には保険会社から補償金が支払われる構図ができてしまいます。
自賠責保険の悪用は詐欺になるのか
自賠責保険は被害者救済のための制度ですが、これを故意に悪用した場合、保険金詐欺(刑法246条詐欺罪)に該当する可能性があります。
例えば、痛みがないのに通院を続け、120万円の補償金を受け取ったとすれば、それは事実と異なる診療記録に基づく請求であり、虚偽の申告=詐欺行為と判断されるおそれがあります。
バイク屋や第三者の助言による誘導も危険
「病院に行けばもっといいバイクが手に入る」などとアドバイスされ、軽い気持ちで通院を始めるケースもありますが、その発言に従って詐欺に加担すれば、本人も共犯として責任を問われる可能性があります。
また、そのような助言をした第三者にも、教唆(きょうさ)や幇助(ほうじょ)による処罰対象になる可能性があるため、非常にリスクの高い行動です。
医師はどのような基準で治療を判断している?
医師はレントゲンやMRIなどの客観的所見がなくとも、患者の訴える痛みや不快感をもとに診断を下すことができます。特に整形外科では、問診と触診が主な判断材料となります。
そのため、痛みの訴えが明らかに不自然であっても、医師が治療を断定的に否定することは難しく、治療が漫然と続いてしまうリスクもあります。
保険会社や医療機関も注視している
近年では、保険会社も不正請求対策として調査を強化しており、通院回数が異常に多い、事故内容と怪我の程度が乖離しているなどのケースでは、医療照会や現場調査が行われることもあります。
不正が発覚すれば、保険金の返還や警察への通報、最悪の場合には起訴に至ることもあります。これは“たかが通院”では済まされません。
まとめ:軽率な行動が重大な結果を招く
自賠責保険は、正当な被害者を救済する大切な制度です。しかしそれを私利私欲で利用しようとすれば、詐欺罪として刑事責任を問われる可能性があることを忘れてはなりません。
- 「痛い」と言えば医師は治療を行うのが原則
- 嘘の申告で保険金を得るのは詐欺のリスクあり
- 通院記録や医療費の根拠は調査の対象になる
- 第三者の甘い助言に乗るのは危険
事故後の行動は慎重に。制度を正しく利用し、自身の信頼と法的安全を守りましょう。