行政不服審査法における原処分と裁決の違法性判断の整理と実務的な理解

行政不服審査法の理解には、条文を正確に読み解くことと、実務上の運用を正しく把握することの両方が必要です。とくに6条2項と64条3項の関係については、初学者にとって混乱しやすい論点です。本記事ではこの2つの条文の趣旨と適用関係を、実例も交えてわかりやすく解説します。

行政不服審査法6条2項の趣旨と裁決の違法性

行政不服審査法6条2項は、審査請求の対象となる処分には「原処分」だけでなく「裁決」も含まれるとしています。これは、形式的には裁決が違法であると主張して審査請求をすることが可能であることを意味しています。

たとえば、裁決の手続に違法があった、審理員意見が無視された、聴聞が不適切だったといった事情があれば、裁決の違法性を争点にできる余地があります。

64条3項の「棄却」規定の意味とその狙い

一方で、64条3項は、原処分が適法である場合には、裁決に違法があっても請求を棄却すると定めています。これは「形式的違法があっても実体的には救済の必要がない」とする、いわゆる“実体優先の原則”をとる規定です。

この規定の趣旨は、裁決に些末な手続的違法があったとしても、処分自体が適法であればわざわざ取り消す必要はない、という行政処理の効率性にあります。

「争えない」という意味の誤解

6条2項では「裁決について争うことはできる」が、64条3項により「裁決の違法性のみでは審査請求が認容されない」=「請求棄却となる」という実務上の処理がされます。このため、裁決の違法を理由に請求すること自体は可能ですが、それが認容されるかは別ということになります。

つまり、「争えない」というよりは「争っても原処分が適法であれば結果は棄却される」という理解が正確です。

実例で見る:裁決手続違法と原処分適法のケース

たとえば、ある建築確認取消処分に対して不服審査がされ、裁決では聴聞が十分に実施されなかったという手続的瑕疵があったとします。しかし、原処分自体が建築基準法に照らして適法であれば、64条3項により請求は棄却されます。

このように、審査庁は原処分の適法性を優先して判断し、裁決の瑕疵だけで請求を認容することは基本的にありません。

裁決の違法性が争点となる例外的ケース

ただし、例外的に「裁決に重大な瑕疵があり、処分の適法性にも影響を及ぼす」ようなケースでは、再審査や裁判において裁決違法が問題になることがあります。

たとえば、審査請求人に対する重大な不利益変更を予告なく裁決で行った場合などは、裁決そのものの違法性が処分の妥当性にも影響するとして違法と判断される可能性があります。

まとめ

行政不服審査法においては、6条2項により形式的に裁決の違法を争うことは可能ですが、64条3項により、原処分が適法であれば請求は棄却されるという関係にあります。これは条文の矛盾ではなく、それぞれの条文が異なる次元で役割を持っていると理解することが大切です。

実務的には、審査請求の際は原処分の違法性を主張することが重要であり、裁決の違法性を主張する場合も、それが原処分の適法性に影響を与えるかを慎重に検討する必要があります。

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