スーパーやコンビニなどで現金を支払う際、受け渡しにトレーを使うことは一般的です。しかし、支払いの最中に第三者によって現金が盗まれてしまった場合、誰に所有権があるのか、また責任はどちらにあるのかという点は、あまり知られていない論点です。本記事ではこの問題について、民法上の視点や実務の観点から解説します。
現金の所有権はいつ誰に移るのか?
民法上、売買契約において代金の支払いと商品受け渡しは同時履行の関係にあります。つまり、商品と引き換えに代金を受け取る、またはその逆が原則です。支払う側が現金をトレーに置いた段階で、形式的には「支払いの意思表示」がなされたと解されますが、店側が現金を確認・回収するまでは受け取りの事実が成立していない可能性があります。
このため、トレーに置かれた現金が盗まれた場合、その時点で誰が所有者だったかというと、法律上はまだ客が所有者であるという見解も成り立ち得ます。ただし、実務上は状況や店側の対応によって扱いが変わることもあります。
店舗がトレーを設置している場合の責任の所在
店側が現金トレーを設置していること自体が、ある種の「受領準備義務」の表れと考えることもできます。つまり、「ここに置いてください」と明示している場合、それによって客は店側の指示に従ったことになります。
このような場合、店側がすぐに現金を確認・管理しなかったために盗難が発生した場合には、店側にも一定の過失が認められることがあり、善良な対応として商品の提供や返金対応をすることもあります。
お釣りが盗まれた場合の扱いはどうなる?
逆に、客側がすでに支払いを済ませていて、お釣りをトレーから取ろうとした瞬間に盗まれた場合、このお釣りは既に客のものと考えられます。つまり、このケースでは客側が損害を被ることになりやすいです。
店舗の善意対応として再発行・返金する例もありますが、法的には「受け取ったものを保管・管理していなかった」ことから、責任は客側にあるという判断も可能です。
実際のトラブル事例と店舗の対応
実例として、関西地方のあるスーパーでは、現金支払い時に子どもが走り寄ってトレーの千円札を奪い、そのまま逃走した事件がありました。このケースでは監視カメラ映像と客の証言に基づき、店舗側が商品の再提供を行ったとされています。
また、大手コンビニチェーンの一部では「現金授受中のトラブル防止のため、現金確認後すぐにレジへ収納する」という手順マニュアルが整備されており、こうした背景が店舗側の過失を減らす措置となっています。
法律的・実務的観点からのまとめ
結論として、トレーに置かれた現金の所有権が誰にあるかは「店舗の受領の意思」と「客の支払いの完了」が認定のカギになります。ただし、現実的には店舗と顧客の信頼関係や、事後の対応が重視される場面が多くあります。
もしトラブルに遭った場合は、すぐに店員に報告し、防犯カメラの確認を依頼するなどの冷静な対応が大切です。また、可能であれば電子マネーやキャッシュレス決済など、トレーを介さない方法を選ぶのも一つの予防策となります。
まとめ:現金授受の責任範囲とリスク管理
現金トレーは便利な一方で、リスクも内在しています。支払いと商品の受け渡しが同時であることを意識し、トレーに置いた現金がまだ客の所有である可能性があることを理解しておくことが重要です。
万一のトラブルに備え、利用者もお店側も安全対策を取ることで、双方が安心して取引できる環境が整います。