仮にある飲料が致死性を持っていたとして、その危険性を知りながら広く意図的に宣伝した場合、たとえ「死亡率が低い」と主張しても法的責任を免れることはできるのでしょうか?本記事では、こうした行為が刑事裁判でどう評価されるかを、日本の法体系に基づいて解説します。
刑法上の構成要件と責任能力
刑法では、他人の生命や身体に対する危害を予見しながら行為に及んだ場合、「未必の故意」または「重過失」として処罰される可能性があります。危険な飲料を致死性があると知りながら広報した場合、それは故意または未必の故意による加害行為と評価される可能性が高いです。
たとえ消費者の多くが死亡しなかったとしても、実際に死亡者が出ている以上、その因果関係が認定されれば、業務上過失致死または殺人幇助罪などが成立しうると考えられます。
量的な比較ではなく行為の危険性が問われる
「1000人の死亡は割合的に少ない」といった主張は、刑事裁判では本質的な抗弁とはなりません。刑法では、結果の重大性と行為の危険性・違法性が問われるため、死亡した人数が全体に対して少ないことは免罪理由とはならないのです。
これは製薬会社や食品企業などにおいても同様で、たとえ極めて稀な副作用であっても、事前に予見でき、適切な警告や対策を取らなかった場合は、企業や担当者が責任を問われることがあります。
過去の判例と実例から見る傾向
日本国内外では、消費者の安全を無視した製品流通によって、企業の代表者が刑事責任を問われた例があります。例として、食品添加物による健康被害事件では、販売者や広報責任者が刑事告発され、有罪判決を受けたケースも報告されています。
特に、科学的に危険性が証明されていたにも関わらず、企業が利益目的でリスクを隠蔽または軽視したとされる場面では、社会的非難も厳しく、量刑にも影響を及ぼします。
弁護士の主張が認められる可能性
弁護士が「割合的に安全」と主張することは弁護戦略としてあり得ますが、それが無罪の決定打となる可能性は極めて低いといえます。裁判所は、広報行為の違法性と、結果として人が死亡した事実を重く受け止め、責任能力や故意性の有無を中心に判断します。
よって、「割合的に安全だから無罪」という主張だけで無罪が成立することは、通常の日本の刑事裁判の運用上、考えにくいといえます。
まとめ
たとえ致死性のあるジュースを購入者が理解して飲んだとしても、それを知った上で広く宣伝した行為は、刑法上の違法性と因果関係を構成しうる重大な行為です。死亡率の低さは免罪の根拠にはなりにくく、広報者や関係者が刑事責任を問われる可能性は十分にあります。
消費者の安全を守るためにも、企業や個人が商品を広める際には、その安全性や法的責任について深く理解し、慎重な行動が求められます。