法律を学び始めた人が混乱しやすいのが「片務契約」と「双務契約」の違いです。特に使用貸借契約(しようたいしゃくけいやく)がどちらに該当するのかは、大学の講義や参考書でも意見が割れているように感じることがあるかもしれません。今回はこのテーマについて、民法上の定義とともに丁寧に解説します。
そもそも「片務契約」と「双務契約」とは?
まずは基本的な定義を押さえましょう。片務契約とは、一方のみが義務(債務)を負う契約のことです。これに対して、双務契約は、当事者双方が義務を負う契約を指します。
たとえば「売買契約」は典型的な双務契約で、売主は物を引き渡す義務、買主は代金を支払う義務を負います。一方、「贈与契約」は贈与者だけが義務を負うため片務契約です。
使用貸借契約の内容と義務
使用貸借契約とは、「無償で物を借りて使用し、後で返す」という契約です。借主は借りた物を使うことができ、貸主はその使用を許す代わりに、一定期間後に返還してもらうことを期待します。
法律上の定義(民法593条)では、「使用貸借は、ある物を無償で使用収益させるためにその物を受け取る契約」とされています。つまり、貸主は無償で物を貸す義務を、借主は返還義務を負う契約です。
なぜ「片務契約」に分類されるのか?
ポイントは、借主が「代価(お金)」を支払わない点にあります。双務契約とされるためには、契約の「対価性」が必要です。売買契約なら物とお金の交換、賃貸借契約なら使用と賃料の交換がありますが、使用貸借契約では使用の見返りがありません。
つまり、借主が返還義務を負うだけで、貸主に金銭や物的報酬を得る義務はないため、一方的に貸主が義務を負う契約=片務契約と分類されるのが通説です。
なぜ講義で「双務契約」と説明されたのか?
一部の講義や教材で双務契約とされるケースは、実務的または例外的な構成による場合があります。たとえば、「物の返還」を契約上の義務とみなして、当事者双方に義務があると解釈する立場もありますが、これは少数説です。
また、講義では「双務契約的な性質もある」と説明することもあり、これが「双務契約」と断定的に理解されてしまうケースもあります。したがって、法律の分類は「通説か判例か、学説のどの立場に立つか」を確認することが重要です。
実務での扱いと学習のポイント
実務上では、使用貸借契約はほぼ片務契約として扱われます。したがって、契約違反や解除条件を考える際には、一方的に義務を負う関係であるという前提が使われることが多いです。
法律学習では「定義→通説→判例→例外・学説の違い」の順に整理すると理解がスムーズになります。混乱しやすい用語ほど、教科書だけでなく条文・判例・信頼できる法律辞典などを併用しましょう。
まとめ
使用貸借契約は、一般的には「片務契約」に分類されます。その理由は、貸主が無償で物を貸す義務を負い、借主は使用後に返還するだけで金銭的対価を支払わないためです。講義で「双務契約」とされた場合は、解釈上の例外や学説の可能性があるため、講師に確認してみるのもよいでしょう。