誰かの過去に犯罪歴があると知ったとき、それを他人に話す行為がどのような法的リスクを伴うか、あまり意識されていないかもしれません。実は「事実」であっても、相手の社会的評価を下げるような伝え方をすると、名誉毀損に問われることがあります。本記事では、名誉毀損の法的な仕組みと、どのような場合に違法とされるのかを解説します。
名誉毀損とは?法律が定める範囲
名誉毀損とは、他人の社会的評価を不当に低下させる事実を公然と示す行為を指します(刑法230条)。注目すべきは「虚偽」であるか否かではなく、「公然と伝えたかどうか」と「社会的評価を下げたかどうか」です。
たとえその内容が事実でも、相手の評判を著しく損なうような形で話した場合、それが違法となる可能性があるのです。
事実でも違法になる可能性がある理由
「事実を言っただけなのに違法?」と思うかもしれません。しかし、事実の摘示であっても名誉毀損に該当するのが日本の法律の特徴です。たとえば、過去の犯罪歴を現在の勤務先や取引先に伝えることは、本人の社会的信用を損なう可能性が非常に高く、名誉毀損となるリスクがあります。
実際に裁判例でも、「真実であっても、公共性や公益性がなければ名誉毀損が成立する」とされる例が複数存在します。
名誉毀損が成立する要件と例外
- 公然性:不特定または多数の人に対して発言すること
- 事実の摘示:具体的な内容を明かすこと(単なる意見や抽象的批判は除く)
- 社会的評価の低下:その人の信用・名誉・評判を下げる内容であること
ただし、以下の要件を満たす場合は違法性が阻却されます。
- 1. 公共の利害に関する事実である
- 2. 公益目的がある
- 3. 事実が真実である、または真実と信じる相当の理由がある
つまり、単なる「うわさ話」や「個人的な報復目的」で伝えた場合には、違法性阻却の対象にはなりません。
トラブルを避けるための注意点
過去の犯罪歴などセンシティブな情報を扱う際は、次のような行動は避けましょう。
- 職場や取引先などの第三者に伝える
- SNSなどで広く発信する
- 本人に無断で情報を共有する
逆に、公益性が高いと判断されるケース、たとえば保育士の資格審査や政治家の不正などであれば、名誉毀損には当たらない場合もあります。
過去の裁判例から見る実際のリスク
過去には、以下のようなケースで名誉毀損が認定されています。
- 刑事事件の前科を職場で暴露した行為
- ネット掲示板で過去の逮捕歴を拡散した行為
これらはすべて「事実」であったにもかかわらず、公益性がないため違法と判断されました。
まとめ
名誉毀損は「嘘を言ったときだけに成立する犯罪」ではありません。事実であっても相手の名誉を傷つけ、公然と広めた場合は違法となる可能性があるのです。特に過去の犯罪歴のようなセンシティブな情報は慎重に扱うべきであり、正当な理由や公益性がない限り、第三者に伝える行為は控えるのが賢明です。