高齢の親族や独り身の親族から、預貯金口座のキャッシュカードを渡され「必要なときは使っていい」と言われることがあります。しかし、それが正式な委任や法的根拠に基づかない場合、善意であっても法律上のトラブルになる可能性があります。本記事では、そうしたケースにおける注意点やリスクを、遺言や相続、財産管理の観点から解説します。
キャッシュカードの使用許可は法的に有効?
本人の意思でキャッシュカードを渡されたとしても、それが口頭の承諾であれば、法的な委任契約とはみなされない可能性があります。特に、金融機関の規約では「本人以外の使用は禁止」とされており、名義人以外の使用は規約違反であり、不正出金と見なされることがあります。
よって、たとえ本人が了承していたとしても、後に相続人や関係者が問題視すれば「横領」や「不正引き出し」として争いになるリスクもあります。
委任状の作成と成年後見制度の検討
万一のトラブルを避けるには、正式な委任状を作成しておくことが望ましいです。委任状には「○○銀行の口座からの引き出しを○○に許可する」と明記し、本人の署名・押印を含めましょう。
また、本人が判断能力の低下を見せている場合には「成年後見制度」や「任意後見制度」の利用を検討するのも有効です。これにより、法律的に認められた代理人として財産管理ができます。
特定の親族に財産分与する書類とは?
質問の中にある「司法書士が作成した特定の親族への財産分与の書類」は、おそらく「遺言書」や「民事信託契約」などを指していると考えられます。これらの書類は本人が亡くなった後に効力を発揮するものであり、生前の財産管理には直接的な効力は及びません。
したがって、遺言書に記載があるからといって、生前にキャッシュカードを使ってよいという根拠にはなりません。
万が一に備えてやるべきこと
- 使用許可をもらった場合でも、使途を明確に記録(レシート・メモ)しておく
- 可能であれば、通帳の記録や引き出し金額を家族と共有しておく
- 法務省の任意後見制度の利用も視野に入れる
これらを通じて、不正使用と誤解されないよう備えることが大切です。
トラブル事例:善意が疑われるケースも
実際に、善意で預金を使った親族が、相続時に「使い込み」と主張されて訴訟に発展した事例もあります。特に相続人が複数いる場合や、相続財産に不動産や高額な預金がある場合には注意が必要です。
また、金融機関によっては、相続発生後に過去の出金履歴を調査されることもあります。この場合、「本人の同意があった」と主張しても、文書がないと証明が難しくなります。
まとめ:善意の使用でもトラブル回避を意識
たとえ親族からキャッシュカードを託されていたとしても、法的な委任がないままの使用には注意が必要です。本人のために使っていたつもりでも、相続時にトラブルとなるリスクがあります。
可能であれば委任状や成年後見制度の活用を検討し、使用履歴の記録や家族との情報共有を行ってください。「信頼関係があるから大丈夫」と思わず、客観的な証拠と備えが円満な相続と家族関係の維持につながります。