「殴ってこいよ」と言われても暴力は罪になる?正当防衛との違いと刑法の解説

日常のトラブルや口論の場面で「殴ってこいよ」など挑発的な言葉を浴びせられることがあります。その際に実際に手を出してしまった場合、法律上どう扱われるのでしょうか?刑法の視点から「挑発された暴力」とその責任についてわかりやすく解説します。

挑発されたとしても暴行・傷害罪は成立する

日本の刑法では、相手にどんな挑発的な言葉を言われたとしても、それに応じて暴力をふるった場合は原則として暴行罪(刑法第208条)または傷害罪(刑法第204条)が成立します。

たとえば、「殴ってこいよ」「やれるもんならやってみろ」と言われたからといって実際に殴った場合、それだけで罪が軽くなることはありません。挑発はあくまで「情状酌量の余地があるかもしれない」というレベルの話に留まります。

正当防衛との決定的な違い

暴力行為を正当化できる場合として「正当防衛」(刑法第36条)があります。これは「急迫不正の侵害」に対して自己または他人の権利を守るため、やむを得ず反撃する場合です。

つまり、相手から物理的な暴力を受けて、それを防ぐためにやむを得ず手を出した場合にのみ、正当防衛が成立します。「殴ってこい」と言われただけでは物理的な危害が迫っているとはいえないため、正当防衛には当たりません。

裁判で考慮される「挑発」の影響

刑事裁判において、被害者の挑発的な言動は、「量刑判断」の際に考慮される可能性があります。つまり、実刑か執行猶予か、刑の重さに影響するかもしれないということです。

しかし、裁判官の裁量による部分が大きく、挑発されたからといって罪そのものが消えることはありません。むしろ「感情に流されやすく危険」と見なされれば逆に不利になることもあります。

民事責任にも注意

刑事責任だけでなく、暴力をふるったことで相手にケガを負わせた場合、治療費や慰謝料など民事上の損害賠償を請求されるリスクもあります。

仮に相手が挑発してきたとしても、怪我の程度が大きければ数十万円〜数百万円単位の請求がされることもあります。刑事と民事は別であり、両方の責任が問われるのが一般的です。

暴力事件の実例と判例の傾向

過去の判例では、口論の末に暴力を振るった加害者が「被害者の挑発が原因だった」と主張したケースもあります。しかし、多くの場合、刑の減軽にはほとんど繋がっていません。

一例として、東京地裁平成28年の判決では、「被害者が挑発的言動をしたことは認められるが、加害者が理性を失って一方的に暴行を加えた行為の悪質性は看過できない」として、執行猶予付き有罪判決が下されました。

まとめ:挑発に乗らない冷静な対応を

「殴ってこい」と言われたからといって、実際に手を出してしまえば、刑事・民事の両面で責任を問われる可能性が高くなります。正当防衛の成立は厳しく制限されており、挑発は言い訳にはなりません。

感情的にならず、状況を冷静に判断することが自分自身を守る最良の方法です。万一トラブルになった場合でも、すぐに手を出さず、第三者や警察を介するのが賢明な選択といえるでしょう。

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