中小企業の経営者が病気や精神的な問題を理由に職務を退くケースは決して珍しくありません。特にうつ病のような精神疾患を抱えた際には、本人の健康だけでなく、会社や株式、資産、契約など多方面にわたる問題が一度に顕在化します。本記事では、うつ病を理由に退任した経営者と会社側の対応を巡る問題を、法的・実務的観点から紐解き、実際にとるべき行動を整理します。
経営者がうつ病で退任した場合の責任と配慮
うつ病による退任は“やむを得ない事情”として正当な判断です。精神疾患は誰にでも起こり得るものであり、長年経営を支えた功労があるならば、退職金や株式の取り扱いにおいて一定の配慮が求められます。
医師の診断に基づき療養が必要とされている以上、本人に過失責任を問うことは不適切です。会社が一方的に負担を押し付けるのではなく、柔軟な調整が求められる局面です。
株式の買い取り拒否は適法か?
中小企業における株式の譲渡は、会社の定款や株主間契約により制限されている場合があります。ただし、株主の退任に際して保有株式の買い取りが拒否されるのは、法的にグレーな対応です。
Aが希望すれば、民法や会社法に基づいて株式の買取請求や売却交渉を行うことが可能です。弁護士を通じて、公正な価格での買取を求める交渉を始めることが現実的な対応策です。
社用車リースの負担はどうあるべきか
社用車が会社名義でリース契約されている場合、個人(A)に費用負担を一方的に求めることは、契約上・法的に疑義が残ります。あくまで契約者は会社であるため、解約に関するペナルティは会社が負担するのが原則です。
本人が明確に「私的利用」の名目で使っていた証拠がなければ、負担義務は発生しにくいと考えられます。こうした場合、中小企業庁や商工会議所などの第三者機関への相談も有効です。
労働基準監督署・弁護士への相談の有効性
Aが経営者=役員であり、従業員でない場合、労働基準法の直接的な保護対象とはなりませんが、役員報酬や退職慰労金の扱いを巡って争点となるケースもあります。その場合は弁護士への早期相談がベストです。
特に“モラハラ的な対応”や“精神的圧迫”を受けている場合は、民事上の不法行為責任を追及することも視野に入れられます。弁護士費用が不安であれば、法テラスの無料法律相談制度を活用することもできます。
今後の対処方針と支援の可能性
今後の焦点は、①健康の回復を優先しつつ、②株式や契約の適切な処理を進めることです。退職金を辞退したとしても、株式の買取や名義整理、社用資産の帰属関係を明確にするためには、法的な助言が不可欠です。
家族や友人がサポートしつつ、司法書士・税理士・弁護士の連携による整理が最も安心できる方法です。
まとめ:会社退任時は“人”と“権利”のバランスが鍵
中小企業の退任劇は感情が入り乱れやすく、法的な権利関係が後回しになりがちです。しかし、それが長期的なトラブルや不信を生まないよう、第三者の視点と法的手続きを上手に活用することが重要です。
Aさんの健康回復を第一に考えつつ、泣き寝入りせず適正な手続きを取ることが、次の一歩を前向きに踏み出す鍵となるでしょう。