高齢の親を介護しながら同居したり、リフォーム費用を負担したりするケースは少なくありません。しかし、いざ遺産相続となった際に、同居していた子と他の相続人との間で「貢献度」に対する認識にズレが生じ、トラブルになることもあります。この記事では、同居・介護に伴う支出や居住提供の費用を遺産分割でどう評価するかについて解説します。
相続時に「家賃」は評価されるのか?
賃貸契約がなく無償で住まわせていたとしても、他の相続人が「その分、資産を無償提供した」と主張するケースがあります。実務上、相手方が同意すれば住居提供分を金銭評価(=家賃相当)することも可能です。
しかし、遺産分割協議では「家賃相当額を生活費として計上する」という考え方は基本的に法的根拠が薄いため、慎重な扱いが求められます。裁判例でも、実際の契約がない限り家賃分を相続財産として扱うのは難しいことが多いです。
住居提供や介護に対する正当な評価とは?
このような貢献を評価するには「寄与分」の主張が有効です。寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした相続人に、相続財産の中から特別に加算して相続分を認める制度です(民法904条の2)。
たとえば、介護のために自費で家屋をリフォームし、長期間無償で同居・介護を行っていたという実績があれば、それを客観的資料で立証することによって寄与分を主張できます。
寄与分を主張する際に必要な証拠と手続き
寄与分が認められるには、相続人間の協議または家庭裁判所での審判が必要です。その際に重要となるのは次のような証拠です。
- リフォーム費用の領収書や振込明細
- 介護内容を示すメモ・日誌
- 介護サービスの利用記録や介護認定通知書
- 同居期間や生活実態を示す住民票や写真
これらを揃えて寄与分の正当性を主張することで、遺産分割協議における交渉材料になります。
生活費の一部を負担した証明とその位置付け
家賃に代わる費用として、生活費の支出があれば、それを「扶養義務の履行」と評価されることが多く、原則として寄与分に該当しにくいとされます。しかし、生活費の名目で実質的に住居提供の負担をしていたことが明らかであれば、協議や裁判所で考慮される可能性があります。
実妹など他の相続人が介護に無関与であった点も、寄与分を主張する根拠になります。
トラブルを防ぐためにできること
こうしたトラブルを未然に防ぐためには、介護の始まりから記録を取り、支出の根拠を明確にし、可能であれば生前に遺言書や合意書を作成しておくことが望ましいです。
遺産相続は家族関係に影響を及ぼすため、弁護士や司法書士といった専門家のサポートを受けながら、冷静かつ法的根拠に基づいた対応が重要です。
まとめ:住居提供と介護の貢献は「寄与分」として認められる余地あり
家賃を生活費として直接計上するのは難しいものの、住居提供や介護にかかった費用と労力は寄与分という形で評価される可能性があります。証拠の整備と専門家の協力により、相続トラブルの解決に向けた道筋が開けるでしょう。
主張には冷静さと法的な裏付けが不可欠です。感情的な対立になる前に、制度を理解し、準備を進めていきましょう。