高齢者による交通事故が社会問題化する中、「家族が無理やり免許証を取り上げることはできるのか?」という疑問を持つ方も少なくありません。本記事では、運転免許に関する法律上の権利と、家族の関与の限界について解説します。
運転免許証は個人の法的権利
運転免許証は国家が交付する公的な資格であり、本人にのみ与えられた法的な運転権限です。そのため、家族であっても本人の同意なく免許証を取り上げたり、使用を禁止する法的権限はありません。
たとえば家族が免許証を隠したり、鍵を取り上げたとしても、本人が警察に通報すれば「窃盗」や「器物損壊」と見なされる可能性さえあります。
免許返納の制度と自主性の壁
75歳以上の高齢者には認知機能検査が義務付けられているものの、免許返納は基本的に自主的な行為です。本人の意思がなければ、たとえ家族がどれだけ危険を感じていても、返納させることはできません。
一方で、認知症や重大な疾患がある場合、医師が「運転に支障がある」と診断すれば、公安委員会が免許停止や取り消しを行うことも可能です。
成年後見制度の活用も視野に
本人が判断能力を失っていると考えられる場合には、家庭裁判所を通じて成年後見制度を利用することができます。後見人が選任されれば、運転に関する判断も制限できる場合があります。
ただし、この手続きには時間と手間がかかるため、緊急性が高い場合には十分な対応とは言えません。
家族の責任と「言いがかり」問題
高齢者が事故を起こした際、「なぜ家族は止めなかったのか」と責任を問う声が上がることがあります。しかし、法的には家族に責任が及ぶことは基本的にありません。ただし、過去に事故歴があり、それを放置していた場合などは、民事上で一部責任が問われることも稀にあります。
たとえば、家族が「明らかに運転に支障がある」と知りながら車を提供した場合、共同不法行為と見なされる可能性もあるため注意が必要です。
現実的な対応策と心構え
高齢の家族に免許返納を促すには、説得・共感・代替手段の提示が重要です。運転をやめることが「自由の喪失」にならないよう、公共交通機関の活用やタクシー利用補助などを提案しましょう。
また、地域の高齢者相談窓口や運転技能評価を行う自治体サービスを利用することで、客観的な判断を促す手助けにもなります。
まとめ:法的権利と道義的責任の狭間で
家族が免許を奪うことは法的にはできませんが、安全を守るための働きかけは極めて重要です。制度面の限界がある以上、家族や社会が連携して高齢者の安全な生活を支える取り組みが求められます。
法に触れる行為ではなく、信頼と対話によるサポートが、最も現実的かつ効果的なアプローチであるといえるでしょう。