日本における高齢ドライバーの交通事故が社会問題化するなか、特に逆走事故やブレーキとアクセルの踏み間違いといった事故が注目されています。とりわけ90歳以上の運転者による事故報道が増えるにつれ、「年齢で免許を制限すべきでは?」という声が高まっています。本記事では、高齢ドライバーの運転適性と免許制度の課題を多角的に解説します。
現在の高齢者向け運転免許制度とは?
現在、日本では75歳以上の高齢者を対象に「高齢者講習」と「認知機能検査」が義務づけられています。さらに、認知機能検査の結果によっては「運転技能検査」も課され、これに合格しないと免許更新ができません。
一方で、85歳以上に対して特別な法律上の運転規制は存在せず、個人の体調や判断に任されているのが現状です。これは高齢者の「自立支援」や「移動の自由」といった権利の尊重が背景にあります。
体調の急変と検査制度の限界
ご指摘のように、検査に合格した翌日以降に認知機能が急激に低下したり、身体能力が著しく落ちたりすることは実際に起こり得ます。検査は「ある一時点での状態」を確認するだけにすぎず、未来の運転リスクを完全に排除することはできません。
特に高齢者の体調は日によって大きく変わるため、「検査合格=安全運転可能」とは限らないという現場の声も少なくありません。
年齢による免許返納の義務化は可能か?
現在の日本の法律では、一定年齢に達したからといって自動的に免許を失効させる制度は存在しません。年齢だけを根拠に免許を取り上げることは、「個人の移動権」や「差別の禁止」という観点から、憲法的な問題をはらんでいます。
ただし、近年は「自主返納」が推奨され、運転経歴証明書の交付や地域限定の優遇制度(バス割引など)も拡充されています。
実際の事故データと95歳超のリスク
警察庁のデータによると、高齢者(特に80歳以上)による交通事故の発生率は年々上昇傾向にあります。95歳を超えたドライバーによる事故件数は少数派であるものの、重大事故の割合が高いのも事実です。
たとえば、2023年には99歳のドライバーが逆走事故を起こし大きく報道されました。こうした事件が起きるたびに「上限年齢の設定」を求める声が強まります。
海外における高齢ドライバー制度の例
諸外国では以下のような制度が採られています。
- イギリス:70歳以降は3年ごとに更新。健康状態の自己申告が必要。
- アメリカ(州による):75歳以上で技能検査が義務の州も存在。
- オーストラリア:75歳以降は年1回の医師の診断が必要。
これらの制度はいずれも「年齢制限」ではなく、「能力確認」に重点を置いており、日本の現行制度とも共通点があります。
将来的な制度改正の可能性と提案
今後は、検査頻度の増加やAIを活用したドライバー評価、限定免許制度(自宅周辺のみ走行可など)の導入が検討されるかもしれません。また、免許を返納した高齢者向けの移動支援策(無料送迎サービスなど)の強化も重要です。
「運転をやめさせる制度」ではなく、「安心して運転をやめられる仕組み」が求められています。
まとめ:年齢より重要なのは「運転能力」と「代替手段の充実」
高齢ドライバー問題の根本解決には、単なる年齢制限ではなく、日常的な健康管理、定期的な運転評価、地域による交通支援の三本柱が必要です。
「検査をしても体調は急に変わる」という意見はもっともですが、それを理由に全員の免許を剥奪するのではなく、誰もが納得できる社会的合意と法制度の整備が求められています。