令和6年4月より施行された制度により、精神科病院内での患者虐待に関しては、全ての医療従事者に通報義務が課されるようになりました。今回の記事では、通報後の行政対応や、院長・師長の責任の所在、実際に起こり得る処分について整理して解説します。
制度改正:通報義務の新設とその背景
これまで精神科病院では「虐待の通報義務」は明文化されていませんでしたが、近年の事例を背景に、令和6年4月より通報義務が法的に明文化されました。
虐待に該当する行為が疑われた場合、発見者に速やかな通報義務が課されており、組織的隠蔽が発覚した場合には病院全体の行政処分にも発展する可能性があります。
通報があった場合の行政の対応と流れ
通報を受けた都道府県などの行政は、該当施設への実地調査・ヒアリング・記録確認を行います。
今回のように「拘束目的で車椅子ベルトを柱に括りつける」といった行為は、不適切な身体拘束として、虐待と評価される可能性が極めて高いです。
調査後は以下のような行政指導が下される可能性があります。
- 改善勧告・報告書提出の義務
- 再発防止策の提示・職員研修の実施
- 重大な場合には診療報酬返還や病院名の公表
院長・病棟師長の責任と懲戒の可能性
医療機関において、組織的に報告がなされていながら虐待通報を怠っていた場合、管理職の監督責任が問われることになります。
今回のケースのように「報告書は提出されたが、通報義務を履行しなかった」場合、行政からは以下のような対応が行われる可能性があります。
- 院長:報告義務違反や監督不備として厳重注意または役職停止勧告
- 病棟師長:現場管理責任として異動・訓戒等の内部処分対象となる可能性
ただし、初回の事例であり、かつ改善意志が明確に示されている場合には、即時の解任や懲戒免職に至ることは稀と考えられます。
過去の行政指導・処分事例
2022年に大阪の某精神科病院で類似の虐待事案があり、行政は病院名を公表し、診療報酬返還を命じました。ただしその際も、院長は引責辞任したが、行政による解職命令は出されていませんでした。
現実には、再発防止策を提示し、研修などを徹底することで、「組織的改善を前提とした処分(例:管理体制強化)」にとどまる場合が多いです。
通報の重要性と職員が知るべきこと
虐待の判断が難しいケースもありますが、令和6年以降は通報義務が明確化されたため、迷ったら速やかに通報・相談する姿勢が求められます。
組織内で報告していたとしても、それが行政への通報につながらなければ義務違反に問われる可能性がある点は職員一人ひとりが認識しておく必要があります。
まとめ
精神科病院における虐待行為に対しては、令和6年4月から明確な通報義務と行政対応が法制度上整備されました。
今回のケースでは、通報遅れが管理職の責任問題に発展する可能性はありますが、初動の対応状況や改善策の提示次第で「改善指導」で収まる可能性も十分にあります。ただし、再発や組織ぐるみの隠蔽が確認されれば、より厳しい処分が下されるリスクも否定できません。