行政法の学習において、「実体的統制」と「判断過程審査」という用語の理解は、司法審査の基礎を固める上で重要です。しかしながら、この2つの概念は抽象的で混同されやすいため、具体的な例とともに明確に区別して理解することが必要です。
実体的統制とは何か?
「実体的統制」とは、行政庁が行った処分の結論自体が適法かどうか、つまり処分の実質的な内容が法的に妥当かを審査する枠組みです。これは、いわば「何をしたのか」を直接チェックする考え方です。
例えば、免許の取消処分が「平等原則違反」や「目的違反」に該当するか、あるいは「信義則違反」や「比例原則違反」に当たるかといったように、実際に下された結論が法に適合するかを問い、違反があるとすれば違法とされます。
判断過程審査とは何か?
一方で「判断過程審査」とは、行政庁がある処分を決定するに至った過程に注目し、その判断において考慮すべき要素を適切に考慮したか、考慮してはならない要素を排除できていたかを審査するものです。
言い換えれば、「どのように考えてその判断に至ったのか」、つまり「考え方の手続きの適正さ」を審査するアプローチです。
例として、ある営業許可の不許可処分において、考慮すべき公共の安全や福祉の事情を軽視し、逆に個人的な感情や不適切な事情を重視していた場合には、判断過程に瑕疵があると評価され、違法とされる可能性があります。
実体的統制と判断過程審査の違い
両者の違いをまとめると以下の通りです。
比較項目 | 実体的統制 | 判断過程審査 |
---|---|---|
審査対象 | 処分の結論自体 | 判断の思考・検討過程 |
典型的な違法事由 | 目的違反、動機違反、信義則違反など | 考慮すべき事項の不考慮・不適切な加重評価など |
視点 | 結果主義的 | プロセス重視 |
このように、「何を決めたか」に焦点を当てるのが実体的統制、「どう決めたか」に焦点を当てるのが判断過程審査ということになります。
両者は排他的ではない
実は、実体的統制と判断過程審査は完全に分離された概念ではありません。判断過程審査において導き出された結論が、結果として実体的にも違法と評価されることもあります。そのため、両者はあくまで司法審査の分析枠組みの違いであり、実務上は併存することもあります。
特に「裁量の逸脱・濫用」を判断する場合、両者の視点を融合的に用いることも少なくありません。
裁判例に見る実例
たとえば、薬事法処分における「スモン訴訟」では、厚生省(当時)の薬事行政の判断過程が批判されました。そこでは有効性の過大評価・副作用の過小評価という判断過程上の瑕疵とともに、結果的に被害の拡大を招いたという実体的瑕疵も問題とされました。
このように、判断過程審査は形式的なものではなく、結果との整合性や合理性を含めた評価がなされる点が重要です。
まとめ:行政裁量の審査枠組みを理解する
行政裁量が絡む場面では、その判断が適法かどうかを「実体的統制」または「判断過程審査」の視点から検討します。結論の違法性に着目するのが実体的統制、思考過程の合理性を問うのが判断過程審査です。
実務においては両者を併せて検討することもあり、形式論に偏らず、「合理的で公平な行政判断であったかどうか」を複合的に判断することが求められます。