刑事事件において逮捕されたものの、その後に嫌疑が晴れて無罪となったケースは決して珍しくありません。では、無罪が確定した場合に「逮捕歴」そのものは消えるのか――この点については、法律上の仕組みや社会的な扱いに関して、誤解が多く存在しています。この記事では、冤罪や無罪判決を受けた後の逮捕歴の法的位置づけと、実生活に与える影響、記録の扱われ方などについて詳しく解説します。
逮捕歴とは何か?前科との違いを理解する
まず大前提として、「逮捕歴」と「前科」は全く異なる概念です。前科は刑が確定した場合に生じるものであり、裁判で有罪とされなければ付くことはありません。一方、逮捕歴はあくまで捜査機関によって「逮捕された」という事実を指します。
つまり、無罪になったとしても、逮捕という事実自体は「捜査の経緯」として警察や検察の内部記録に残ります。ただし、これが自動的に一般に公開されたり、就職先や住民票に記載されたりすることはありません。
警察内部に残る「前歴」の記録
無罪が確定しても、警察や検察などの捜査機関には「前歴」として記録が残ります。前歴とは「過去に逮捕・取調べを受けたことがある」という情報で、将来の捜査や身辺調査などで参照される可能性があります。
例えば、再び類似の事件が発生した場合、「過去に同様の件で捜査された人物」として名前が浮かぶこともあり得ます。ただし、この前歴は厳密に管理されており、第三者に勝手に漏洩されることは基本的にありません。
裁判で無罪となった場合の公的記録の扱い
裁判で無罪が確定した場合、その判決内容は公開され、法務省や裁判所の記録として残ります。ただし、逮捕された事実そのものが消去されるわけではなく、「その後に無罪となった経緯」も含めて記録されます。
このため、裁判資料やニュース記事などを検索された場合、逮捕から無罪確定までの流れがネット上に残ることもあります。これが「ネット上の逮捕歴は残る」と言われる背景の一つです。
実生活への影響と消すための手続き
逮捕歴が一般公開されることは原則ありませんが、マスコミ報道やSNS拡散によって名前が知られた場合、社会生活に影響が出るケースもあります。就職活動で不利に働いたり、周囲から誤解を受けたりするリスクが残ります。
そのような場合、弁護士を通じて名誉回復や削除請求を行うことができます。特に報道機関や検索サイトに対しては、無罪判決が出たことを根拠に記事削除や検索結果の非表示を求めることが可能です。
国家賠償や名誉回復制度の活用
冤罪が証明された場合、国家賠償請求や刑事補償制度を利用して、精神的・経済的損失に対する補償を求めることが可能です。例えば、刑事補償法では、身柄拘束を受けた日数に応じて1日あたり1,000円~12,500円の範囲で補償金が支払われます。
また、名誉回復措置として、裁判所が「無罪判決により社会的名誉が回復された」との声明を出すこともあります。これらの制度を活用することで、逮捕歴の影響を少しでも緩和する手段が存在します。
まとめ:無罪=完全に記録が消えるわけではない
冤罪で無罪になった場合でも、逮捕歴という「捜査記録」は警察内部には残るのが現実です。ただし、それが一般公開されたり、不当な差別に直結することは基本的にありません。
社会的影響や名誉の問題については、法的手続きによって対処できる可能性もあるため、専門家と連携しながら冷静に対応することが大切です。誤解に振り回されず、正確な知識と制度の利用で権利を守っていきましょう。